この記事は
山田五郎さんのYoutubeチャンネルである
「山田五郎オトナの教養講座」より、
動画の内容を文字に起こして
解説していくものです。
第17回目のタイトルは
【快楽の園ってなんなの?】
今回はボスの作品についてです。
まだ動画をみてない方は
是非ご覧になって下さい。
文字の方が理解しやすい方は
ぜひ最後までお付き合いください。
快楽の園ってなんなの?
![garden of pleasures](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/1280px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-1-300x160.jpg)
今作はヒエロニムス・ボスが
1510~1515年頃(諸説あり)に制作した
「快楽の園」という三連祭壇画です。
![Hieronymus Bosch](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/341px-Jheronimus_Bosch-1-213x300.jpg)
ボスは現在でいうオランダの画家で、
イタリアのダヴィンチとほぼ同時期に
活躍した人物です。
独創的な怪物を多く描いたことでも有名で
山田さんはボスのことを、
オランダの水木しげると呼んでいるそうです。
今回はそんなボスの代表作である
「快楽の園」は一体なにを描いているのか?
という興味深いテーマです。
三連祭壇画とは?
![Mystical Marriage of Saint Catherine](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/640px-Virgin_and_Child_with_Saints_Catherine_of_Alexandria_and_Barbara_MET_LC-14_40_634_Suppl_1-1-300x149.jpg)
三連祭壇画とは3つの絵(板)で
分けられた絵画作品のことを指し、
蝶番で折り畳めるのが特徴です。
通常、真ん中の絵が1番大きくて
3枚の絵には関連性があります。
三連祭壇画を畳むと扉のようになり、
そこには物語のプロローグが
描かれていることが多いです。
![Book of Genesis](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/443px-Hieronymus_Bosch_-_The_Garden_of_Earthly_Delights_-_The_exterior_shutters-1-277x300.jpg)
↑は快楽の園を閉じた様子で
天地創造の場面が描かれています。
![garden of pleasures](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/1280px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-1-300x160.jpg)
開くと↑のような状態になり、
左から右へ時間が経過するように
描かれています。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1920px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-1-130x300.jpg)
左のパネルには天地創造後の楽園、
アダムとイブが描かれます。
ここでアダムとイブは蛇に唆されて、
禁じられた知恵の実を食べてしまい
楽園を追放されることになります(原罪)。
キリスト教においてアダムとイブが神の命令に背き、「知恵の実」を食べてしまった人類最初の罪のこと
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1920px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-2-1-285x300.jpg)
中央パネルには楽園追放後、
神話の後の現在(歴史上)の話が
描かれます。
にしても今作のは摩訶不思議というか、
本当に現在の話なのか?
といった感じですね(後述)。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1920px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-3-1-132x300.jpg)
右パネルは未来が描かれており、
最後の審判がテーマです。
人類最後の日に天国と地獄に
振り分けられるのが最後の審判ですが、
ボスの絵には地獄の場面しか
描かれていません。
ここも不思議ですね。
![garden of pleasures](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/1280px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-1-300x160.jpg)
以上が連なったのが楽園の園です。
この作品から、
- 人類には原罪があるから(左)
- 生きてるうちに償わないと(中央)
- 地獄に落ちる(右)
という教訓が得れるようになっています。
三連祭壇画の多くが同じ構成・教訓になっている
気になるポイント
ではここから再度、
1枚ずつポイントを見ていきます。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1920px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-1-130x300.jpg)
まずはアダムとイブの場面。
アダムの肋骨から作られたイブは
神に手を取られてアダムと
初めて顔合わせをしています。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco.jpg)
絵の中央右手には
知恵の実のなる木と蛇がいます。
これから原罪が始まるのでしょうか。
アダムとイブは知恵の実を食べた後、
自分たちが裸でいることを恥じ、
いちじくの葉で体を隠します。
![expelled from paradise](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/167babb6-1-255x300.jpg)
アダムとイブ(原罪)の場面は、
- 知恵の実を食べている場面
- 楽園を追放されている場面
が一般的なのですが、
ボスの作品では実を食べる前という
珍しいパターンになっています。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1920px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-2-1-285x300.jpg)
続いて中央パネル。
通常ここには人類の歴史が
描かれるのですが、
今作はとても人類の歴史に見えません。
- なぜ、みんな裸?
- イエスやマリアが描かれていない
- 人工物が1つもない
- 楽園追放後なのに楽園っぽい
不思議なポイントがたっぷりです。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1920px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-1-1.jpg)
更に中央パネルでも
知恵の実の木が生えており、
食べている人もいます。
これだと楽園追放後ではなく、
楽園の場面が続いていることに
なってしまいます。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1920px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-3-1-132x300.jpg)
そして最後の右パネル。
地獄しかない最後の審判。
ここには奇妙な怪物が
たくさん描かれています。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1920px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-2-1-1.jpg)
中央にいる通称「樹幹人間」は、
身体の中が居酒屋になっており、
顔はボスの自画像といわれています。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1920px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-1-3.jpg)
その下にはたくさんの楽器があります。
これは通称「音楽地獄」と呼ばれます。
音楽が地獄?となりますね。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1920px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco.jpg)
音楽地獄の右には地獄の王子がいます。
これは堕天使ルシファーと呼ばれており、
キリスト教は一神教のため、
悪魔も「地獄に落とされた天使」と
解釈されます。
地獄でルシファーは、人を食べては排泄を
繰り返しているのです。
ただ、ボスの描いたルシファーは
あまり怖い見た目じゃありませんね。
![garden of pleasures](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/1280px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-1-300x160.jpg)
このように、ボスの三連祭壇画は
伝統的でありながらも
かなり独特な作品になっています。
中でも特に不可解なのが、
メインとなる中央パネルです。
これらは一体…
どのように解釈すればよいのでしょうか?
異端「アダム派祭壇画」説
山田さんは快楽の園の解釈について、
「アダム派の祭壇画ではないか」とする説を
説明します。
アダム派とは2世紀~3世紀に
北アフリカに存在したカルト宗教で、
中世ヨーロッパで一時的に復興しました。
アダム派の目的は
「アダムとイブ以前の生活に戻る」こと。
つまり原罪以前の生活に戻ることを掲げ、
元祖ヌーディストでもあります。
他にも結婚に意義は無いものとし、
男女が自由に交わることも掲げています。
山田さんはそんなアダム派のことを
元祖ヒッピーと呼んでいました。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1920px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-2-1-285x300.jpg)
それらを踏まえると、
中央パネルの見え方が変わってきます。
全員が裸で、人工物が一切ないのは
アダム派の目指した世界なのではないか?
と解釈できます。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco.jpg)
左パネルで知恵の実を食べていないのも、
原罪以前に戻ることの現れと解釈できます。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1920px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-1-1.jpg)
そして現在→未来となるのは、
現在でも知恵の実を食べてしまったら、
地獄に落ちるという教訓と解釈できます。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1920px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-1-3.jpg)
地獄に文明物があったのも、
アダム派にとっては悪だからですね。
ところが、
一般的にこのアダム派祭壇画説は
否定されているようなのです。
アダム派説なぜ否定?
今作はボスが亡くなった際、
ナッサウ伯爵家が所有していたことが
わかっています。
![Duke of Alba III](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/540px-After_Willem_Key_-_Portrait_of_Fernando_Alvarez_de_Toledo-1-225x300.jpg)
その後、現在のオランダはスペイン領となり
アルバ公3世が快楽の園を没収し、
スペインへ持ち帰りました。
そしてフェリペ2世が今作を買い、
エル・エスコリアル修道院に入るなどして
現在はプラド美術館にあります。
ここで重要なのが、
スペインの名門であるハプスブルク家は
厳格なカトリックであるということ。
そんなハプスブルク家が所有した作品が
異端のアダム派の祭壇画のはずがないと
するのがアダム派否定説です。
![Felipe II](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/359px-King_PhilipII_of_Spain-1-150x300.jpg)
ちなみにアルバ公3世やフェリペ2世は
変わった絵が好きだったようで、
スペイン・プラド美術館には
やたらと怪物の絵が多いのだそう。
ですので、宗教上のことはなにも考えずに
異端の絵を購入して保有した可能性も
もしかするとあるのかもしれません。
まとめ
![garden of pleasures](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/1280px-El_jardin_de_las_Delicias_de_El_Bosco-1-300x160.jpg)
✓伝統的な三連祭壇画だが、
かなり変わっている作品
✓異端であるアダム派の世界を
描いているのかもしれない
✓一般的にアダム派説は否定されている
次回はルーベンスの作品についてです。
→伝統的な三連祭壇画
→内容はかなり変わってる
→異端アダム派の祭壇画説
→ハプスブルク家が関係