この記事は
山田五郎さんのYoutubeチャンネルである
「山田五郎オトナの教養講座」より、
動画の内容を文字に起こして
解説していくものです。
第16回目のタイトルは
【「草上の昼食」この女性はなぜ1人だけ裸なの!?】
今回はマネの作品についてです。
まだ動画をみてない方は
是非ご覧になって下さい。
文字の方が理解しやすい方は
ぜひ最後までお付き合いください。
「草上の昼食」なぜ1人だけ裸なの!?
![lunch on the grass](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/06/609px-Edouard_Manet_-_Le_Dejeuner_sur_lherbe-1-300x236.jpg)
今作はエドゥアール・マネが
1862~63年に制作した作品です。
当時、それまでの伝統絵画から
逸脱した作品であったために
批判を受けた作品でもあります。
それにしても作中の女性は
なぜ裸なのでしょうか?
今回はそれがテーマなのですが、
その理由は序盤で明かさています。
![Judgment of Paris](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/01/640px-Urteil_des_Paris-1-300x201.jpg)
それは元ネタがあるから。
↑はラファエロの弟子である
ライモンディの版画です。
(原作はラファエロ)
ルネサンス以降、古典絵画の模範として
ラファエロの作品が使われていましたが、
その理由の1つにライモンディによる
版画がヨーロッパ中に広まったことが
あげられるとのこと。
そして版画の右下をよく見ると…
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/01/640px-Urteil_des_Paris-1-1.jpg)
たしかに草上の昼食と
同じ構図があります。
そして山田さんは
さらにもう1つ元ネタがあると言います。
![rural music](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/596px-Fiesta_campestre-1-300x242.jpg)
それがティツィアーノの作品、
「田園の奏楽」です。
つまり今作は
ラファエロとティツィアーノを
合わせたような作品なのです。
もっといえば
古典的作品+古典的作品
=草上の昼食です。
![lunch on the grass](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/06/609px-Edouard_Manet_-_Le_Dejeuner_sur_lherbe-1-300x236.jpg)
ただしマネの作品はあくまで
19世紀の人々の服装や雰囲気で
まとめています。
現代風の古典といった感じですね。
しかし今作はかなりの批判を
浴びてしまいます。
1863年の国営展覧会、
通称サロンは落選者が約3000人もいた
過去にも例を見ない落選者数でした。
![Napoleon III](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/05/Napoleon_3o_1865-1-244x300.jpg)
そこでナポレオン3世は落選者を集い、
「落選者展」を開催。
今作もその落選者展の方で展示されました。
ところが、
今作はその落選者展の方でも
酷評を受けてしまいます。
なんでそこまで大不評?
なぜ草上の昼食はそこまで
批判を受けてしまったのでしょうか?
ここでキーワードになるのが裸です。
前回のドラクロワの話が今回も登場します。
前回の話を知らない方に簡単に説明すると
西洋絵画では暗黙のルールが存在し、
その1つにギリシャ神話の女神や
旧約聖書のアダムとイブのような、
非実在人物なら裸で描いてよいという
ものがありました。
先ほどのラファエロの作品なら
ギリシャ神話がテーマなので裸でOKですし、
ティツィアーノのは音楽の神という
設定なのでOKといった感じです。
ではマネのは…?
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/914px-Edouard_Manet_-_Le_Dejeuner_sur_lherbe-1-300x257.jpg)
この裸の女性も女神という設定にすれば
いけそうな気もしますが…
しかしここで問題が発生。
それはこの女性のモデルが
ヴィクトリーヌ・ムーランだと
バレていたことです。
加えて19世紀の雰囲気を醸し出す
今作には神話画のような
優美さや厳かさがありませんでした。
これでは裸を描く前提となる
非実在人物のルールが
守られていないことになります。
![Birth of Venus](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/05/640px-1863_Alexandre_Cabanel_-_The_Birth_of_Venus-1-300x174.jpg)
↑は1863年のサロンで大絶賛された
アレクサンドル・カバネルの
「ヴィーナスの誕生」です。
裸で横たわる女性の上にエロスがいるので、
女性はヴィーナスであるとわかります。
そしてヴィーナスであれば女神なので
当然、裸で描いてよいわけです。
![Edouard Manet](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/06/309px-Edouard_Manet-1-193x300.jpg)
ここにマネの不満点がありました。
古き慣習かつ作品以外の部分で
評価されるサロンに。
そしてマネは1865年に、
再び挑戦的な作品を出品します。
![Olympia](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/06/640px-Edouard_Manet_-_Olympia_-_Google_Art_Project_3-1-300x204.jpg)
それがオランピアです。
これにも古典の元ネタが存在します。
![Venus of Urbino](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/640px-Tizian_102-1-300x216.jpg)
それがティツィアーノの
「ウルビーノのヴィーナス」。
マネは前回より、
更に知名度のある作品を選びました。
ウルビーノのヴィーナスは
結婚のお祝い作品だとされています。
その理由は以下の通り
- 愛の女神ヴィーナス
- 衣装ケース
- 犬
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1002px-Tizian_102-1-300x286.jpg)
衣装ケースは結婚式の贈り物に
よくあるモチーフです。
衣装ケース=嫁入り道具の象徴
となっているからです。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1002px-Tizian_102-2.jpg)
犬は忠誠の象徴です。
結婚をテーマにした作品に
犬も数多く登場しています。
![Olympia](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/06/640px-Edouard_Manet_-_Olympia_-_Google_Art_Project_3-1-300x204.jpg)
では、オランピアでは
どのように描かれているでしょうか。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1057px-Edouard_Manet_-_Olympia_-_Google_Art_Project_3.jpg)
・・・‼
マネは犬ではなく猫を描いています。
犬と違って西洋での猫は
不吉、肉欲などの意味があります。
また、ヴィーナスも
当時の娼婦のスタイルで描いています。
(腕輪やチョーカーなど)
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/1057px-Edouard_Manet_-_Olympia_-_Google_Art_Project_3-1-300x128.jpg)
さらにマネは当時流行っていた
日本美術の要素も取り入れており、
人物・物体の陰影を薄くして
平面的な表現を使いました。
つまりマネはオランピアでも
現代風の古典を表現したのでした。
オランピアはサロンで入選しますが、
同時に前作以上のスキャンダルを
巻き起こしました。
![Claude Monet](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/06/295px-Claude_Monet_1899_Nadar-1-184x300.jpg)
ちなみに1865年のサロンは、
モネの作品が入選した会でもありました。
2人の作品は同じ部屋に展示され、
それを機にモネとマネは交流を始めます。
挑戦的な作品を描き続けるマネの姿は、
まだ若いモネに大きな刺激と勇気を与えました。
![lunch on the grass](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/06/419px-Monet_dejeunersurlherbe-1-262x300.jpg)
モネがマネをリスペストした
作品もあります。
マネの周りには若い芸術家たちが
集まるようになり、
その中にはモネの友人である
ルノワールやシスレーもいました。
そしてその若い芸術家たちが後年、
印象派として活躍するのでした。
印象派が生まれるキッカケとなった
マネが表現したかったこと
![lunch on the grass](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/06/609px-Edouard_Manet_-_Le_Dejeuner_sur_lherbe-1-300x236.jpg)
ではここで話を振り返ります。
草上の昼食で女性だけが裸なのは
古典絵画の元ネタがあるからです。
そしてマネは古典を
現代風に変えて表現しようとした
画家でした。
ここでいう現代風とは
人物の衣装やモチーフだけでなく、
描き方のことも指します。
まさに古きを温めて新しきを知るを
体現した画家ですね。
![draw-a-picture](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/12/draw-a-picture-ge82b03d1c_640-1-300x201.jpg)
加えて山田さんは動画終盤で、
アートは感性で描くものか?という
話題を持ち出します。
一見、わけのわからない現代アートも
世界的な評価を得る作品の多くは
現代美術史の流れに沿っているそうです。
デタラメにも歴史がある
という表現を使われていました。
まとめ
![lunch on the grass](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/06/609px-Edouard_Manet_-_Le_Dejeuner_sur_lherbe-1-300x236.jpg)
✓女性が裸なのは
古典絵画を元ネタにしたから
✓古典を現代風に
描こうとしたのがマネ
✓マネの活動は若い芸術家たちに
刺激と勇気を与えた
✓印象派誕生のキッカケになった
次回はボスの作品についてです。
→元ネタがあるから
→現代風の古典
→印象派誕生のキッカケ