イタリア・盛期バロック美術の特徴を解説/バロック美術その②【西洋美術史⑱】

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記事の要約

ダイナミックで流動感のある様式

イリュージョニズム

✓彫刻や建築が融合した総合芸術

 

美術史では1620~1670年頃を
盛期バロック美術と呼んでいます。

この時代のイタリアでは
対抗宗教革命も一段落し(教会の勝利)、
カトリック教の権威を表現する美術
目立ち始めます。

まずはこの時代の作品の
画像を確認していきましょう。

神の知の勝利 聖イグナティウス・デ・ロヨラの栄光 神の知恵の寓意

ピエトロ・ダ・コルトーナ
ピエトロ・ダ・コルトーナ
アンドレア・ポッツォ
アンドレア・ポッツォ
アンドレア・サッキ
アンドレア・サッキ
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ


美術史年表

マニエリスム
⇒16世紀半ば~
✓バロック
⇒16世紀末~18世紀初頭

イタリア・バロックの特徴

 

サン・ピエトロ大聖堂
サン・ピエトロ大聖堂前広場

対抗宗教革命の一環として注力された
海外布教にも成果があがり、
カトリック教では「教会の勝利」
視覚化するための豪華で装飾的な芸術が
栄え始めます。

 

聖マタイの召命
「聖マタイの召命」1599-1600年

初期バロック美術は上画像のような
劇的な構図や明暗強調の際立ちが
特徴的でした。

一方、1620年以降の盛期バロック美術は
2つの大きな流れ(特徴)があります。

それは、

  1. 絵画、彫刻、建築の融合(総合芸術)へと向かう、ダイナミックで流動感あふれる様式への流れ
  2. 古典主義へと向かう流れ

の2つです。

それぞれに代表作があるので、
確認していきます。

コルトーナ「神の知の勝利」

 

神の知の勝利
「神の知の勝利」1633‐1639?

まずはピエトロ・ダ・コルトーナ
(1596~1669)の「神の知の勝利」です。

こちらは盛期バロック美術の
ダイナミックで装飾的な特徴をもつ作品で、
ローマのバルベリーニ宮殿の
天井画として描かれました。

クワドラトゥーラを駆使して
天井(建築)と絵画の境界を曖昧にし、
見るものを演劇的空間に誘います。

 

ピエトロ・ダ・コルトーナ
ピエトロ・ダ・コルトーナ

ボッツォ「聖イグナティウス・デ・ロヨラの栄光」

 

聖イグナティウス・デ・ロヨラの栄光
「聖イグナティウス・デ・ロヨラの栄光」1691‐94年

次はアンドレア・ボッツォ(1642~1709)
が手掛けた聖堂の天井画です。

こちらもコルトーナと同様、
装飾的な総合芸術を特徴とする作品です。

 

引用:美術覚書

このようなバロック建築特有の、
描かれた対象が建築物の境界を越えて
はるか上空へ続くような視覚的効果を
イリュージョニズムと呼んだりもします。

 

アンドレア・ポッツォ
アンドレア・ポッツォ

用語の確認

 

トロンプ・ルイユの例

ここまで紹介したように
バロック美術の特に天井画は、
だまし絵のように2次元のものを
3次元的に見せる描き方が特徴です。

だまし絵のことはトロンプ・ルイユとも
呼ばれ、最近ではトリック・アートと
呼ばれることも増えてきました。

 

クアドラトゥーラの例(天井画)

また、建築空間表現で用いられる
だまし絵のことをクアドラトゥーラ
よびます。

更に狭義に、バロック建築(天井画)での
クワドラトゥーラをイリュージョニズム
表現することもあるので、
興味のある方は覚えておくとよいでしょう。

 

用語の確認

2次元のものを3次元に思わせたりする
技法のことをだまし絵という

  1. トロンプルイユ
    →だまし絵のこと
    (近年はトリック・アート)
  2. クアドラトゥーラ
    →特に建築空間での表現法のこと
  3. イリュージョニズム
    →狭義にバロック時代の天井画で
    用いられた視覚的効果のこと

アンドレア・サッキ「神知の寓意」

 

神の知恵の寓意
「神の知恵の寓意」1629‐31年

こちらはアンドレア・サッキ
(1599~1661)の作品。

古典主義的な様式へと
向かう流れの代表作です。
イリュージョニズム的表現が
抑えられているのがわかるかと
思います。

 

アンドレア・サッキ
アンドレア・サッキ

ベルニーニ「聖女テレサの法悦」

 

聖女テレサの法悦
「聖女テレサの法悦」1647‐1652年

最後は建築×彫刻による総合芸術
代表的作品です。

ベルニーニ(1598~1680)により
制作されました。

若い頃から彫刻の才能を
発揮していたベルニーニは、
ギリシャ・ヘレニズム時代の彫刻に
興味を示していました。

 

聖女テレサの法悦

その関心は大理石に
数多く刻まれたドレイパリーや
皮膚の表現にみられます。

また、建築にも長けていた
ベルニーニは礼拝堂の設計も行い、
見事な建築と彫刻の融合、
神秘的な空間を演出しました。

ちなみに「聖女テレサの法悦」は
カトリック教が特に力を入れた
テーマの1つでもあります。

カトリックとプロテスタントの美術を解説

 

ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ

まとめ

 

神の知の勝利
まとめ

✓1620年以降のイタリア盛期バロックでは大きな2つの芸術的流れがあった

✓1つは絵画、彫刻、建築の融合(総合芸術)へと向かう、ダイナミックで流動感あふれる様式への流れ
⇒コルトーナやベルニーニなど

✓もう1つは古典主義へと向かう流れ
⇒アンドレア・サッキやプッサンなど

次回はスペインでのバロック美術を解説します。

 

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