VTS(対話型鑑賞)という
アート鑑賞法があります。
VTSの特徴を簡潔にいうと↓
- 知識に頼らない
- 作品をよくみる/考える
- 洞察力や思考力が鍛えられる
このような鑑賞法になります。
対話型というくらいですから、
この鑑賞法はファシリテーターと
いわれる進行役のもと、
1人以上の鑑賞者がいて互いに
鑑賞/対話することで成り立ちます。
現在ではオンラインでも開催され、
体験できる場が広がっています。
そこでこの記事では
対話型鑑賞のメソッドをもとにして、
鑑賞する際のポイントを解説します。
目次
VTSとは?
![MOMA](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2020/09/entrance-image-museum-crop-7516b01003659172f2d9dbc7a6c2e9d9-1-300x188.jpg)
VTS(Visual Thinking Strategy)は
1980年代にニューヨーク近代美術館
で開発されました。
VTSでは作品を見て気づいたこと、
なぜそう思ったのか、といった対話を
繰り返すことで思考力を高めます。
本来は複数人で行うものですが、
ポイントを押さえれば1人で鑑賞する時にも
応用させることができます。
また、VTSには前提として
(作品の)知識に頼らないこと
が挙げられます。
作者の意図や時代背景などを
知ることも鑑賞を深める上で
とても大切なことですが、
VTSでは知識を必要としません。
それはVTSが、
作品と鑑賞者とのやりとりを
重視しているからです。
2通りの鑑賞法
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2020/03/IMG_0998-300x200.jpg)
アートを鑑賞する上で
実は2通りの見方があるのを
ご存知でしょうか?
まず1つ目は
(作品の)背景とのやりとりです。
引用:DIAMOND online
絵画は見るものではなく読むもの
という言葉もあるくらい、
見ただけではよくわからない作品も
制作者の意図や背景を知ったとたんに
「見えてくるもの」が存在します。
美術は当時の政治・宗教・経済が
絡んでいることがほとんどなので、
美術を知ることはそれらの情報を
知ることにもつながります。
作品を通した背景と鑑賞者のやりとりは
鑑賞者の教養を高めることにもなり、
人気のある鑑賞法の1つです。
引用:DIAMOND online
2つ目が作品とのやりとりです。
制作者が作品に対して込めた意図や
想いが上図の緑色の矢印だとすると、
それとは別に鑑賞者がその作品から
なにを感じたのかなど、
純粋な作品とのやりとりが
オレンジの矢印です。
作品とのやりとりでは
制作者の意図などは関係ありません。
大切なのは作品と鑑賞者との間で
やりとりができているかどうかです。
鑑賞者にとってその作品をどう感じたのか、
イメージなどを言語化することで
(鑑賞者の)ものの見方や価値観に気付き、
他人の感想と比べることで更なる
自己理解や他者理解にもつながる鑑賞法です。
1人VTSを行うポイント
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2020/09/woman-thinking-1149362_640-1-300x200.jpg)
ここからは1人で
VTSを行うポイントを解説します。
そのポイントは以下のとおり↓
- 作品をしっかり見る
- 作品からどんなイメージが
得られたかを言葉にする - イメージの原因を作品から探し出す
順に解説します。
①作品を見る
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2020/03/IMG_0998-300x200.jpg)
最初のポイントですが、
ここが最大の難関といっても
過言ではありません。
見るだけじゃないか、簡単だろ
と思った人もいるかもしれません。
ところが現代では
1つのものをしっかり見る機会が
かなり減っているのです。
しっかり見るのが難しい
![social](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2020/09/mobile-phone-1917737_640-1.jpg)
現代の人が最も苦手とするのが
よくみることだとされています。
そんなわけがないと思いますよね。
人は常に目を使っていますから。
しかしこんな話があります。
MOMAで行われた調査によると、
来館者が1つの作品を鑑賞するのに
費やす平均時間は10秒前後と
いう結果がでました。
また、同じくMOMAで行われた
ギャラリートーク参加者の調査では、
参加者はプログラム終了後ですら
その内容をあまり覚えていなかったそうです。
この調査から、来館者のほとんどが
見たつもりでも(実は)見ていない、
知ったつもりでも(実は)覚えていない
ことが示唆されたのです。
視覚からの情報量の話
![美術館](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2020/09/nike-66681_640-1.jpg)
もう1つ興味深い話があります。
ある研究によると、
人間が五感で受け取る外部の情報量は
1秒間に約1100万bitとわかりました。
そして、その内の約1000万bitを
視覚から受け取っています。
しかし、人間が1秒間に認識できる
情報量は1~16bitといわれています。
つまり、受け取る情報量に対し
認識できる量は僅かであるということです。
これを先ほどの調査と合わせると、
人が作品を10秒程度眺めただけでは
(作品から)ほとんど情報を
得られていないという仮説を立てる
こともできるでしょう。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2020/09/lens-gbcccdbc1a_640-1-300x206.jpg)
VTSでは1作品につき10分以上の鑑賞が
推奨されています。
少し長いと感じてしまうかもしれませんが、
意識してじっくり鑑賞してみましょう。
もし美術館などで行うなら、
キャプションや作品名は
見ないようにしましょう。
②作品からどんなイメージが得られたか
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/06/art-2981726_1280-1-300x200.jpg)
作品をしっかりみた後は
作品から得られたイメージを
言葉にしていきます。
まずは1度、
こちらの作品をみて下さい↓
(実際に10分鑑賞してみても◎)
![fighting form](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/07/marc_fighting_forms-300x210.jpg)
いかがでしょう?
この作品からどんなイメージが
湧きあがりましたか?
もしくは、
この絵は何を描いたものだと
思いますか?
ファシリテーターのいる
対話型鑑賞をする場合、
作品によってファシリテーターは
「何が起きていますか?」とか
「何が描かれていますか?」など
質問を変えたりします。
でも1人の場合はざっくりと
「どんなイメージが湧いてくるか」
という質問で統一しても良いかと思います。
例の作品の場合、
人によっては
「なんか怖い」
「混沌としてる感じ」
「争ってる感じ」
など端的に表現する人もいれば、
「中央の赤いものと黒いものが
衝突し合っている感じがする。
互いにぶつかり合う度にエネルギーが
四方八方に飛び散っている」
など、作中のものをなにかに見立てて
ストーリーを作る人もいます。
これはどちらでも構いません。
大切なのは自身に湧きあがった
イメージを言語化することにあります。
![cheater](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2020/09/640px-Georges_de_La_Tour_025-1-300x218.jpg)
ちなみに↑のように
なにが描かれているか
わかりやすい作品など、
作品によっても
「なんか端的にしか表現できない」
「これはストーリーがありそうだ」など、
鑑賞者によって相性があると思うので、
まずは色んな作品で試してみて下さい。
西洋の宗教画や風景画はあまりVTSに適さないことが多いとされています
③イメージの原因を作品から探し出す
![fighting form](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/07/marc_fighting_forms-300x210.jpg)
次は思考を深掘りするプロセスです。
ここではなぜそう感じたのか?を
追求していきます。
その際にポイントとなるのが
事実と解釈です。
事実
事実とは、
他の誰が見てもそう判断できること
を指します。
![戦うフォルム](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/07/marc_fighting_forms-300x210.jpg)
この作品で誰が見てもそうだと
判断できるのは、
- 色が何色も使われている
- 作品中央左側に赤、右側に黒
- 赤と黒は隣り合って配色されている
- 全体的に直線ではなく曲線的
このような部分ですね。
これをVTSでは事実と考えます。
解釈
次に解釈とは、
鑑賞者によって捉え方が違うもの
を指します。
![戦うフォルム](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/07/marc_fighting_forms-300x210.jpg)
先ほど②の章で
「中央の赤いものと黒いものが
衝突し合っている感じがする。
互いにぶつかり合う度にエネルギーが
四方八方に飛び散っている」
こういった意見がありましたね。
では、この意見での解釈にあたる部分は
どこでしょうか?
正解は、
衝突し合っている感じがする。
互いにぶつかり合う度にエネルギーが
四方八方に飛び散っている
の部分ですね。
この部分はあくまで
意見を述べた鑑賞者が感じたことで
皆同じように捉えられる部分ではありません。
事実と解釈をわける練習
最後に事実と解釈をわける練習を
してみましょう。
これからある作品に対する意見を
あげていくので、その意見が事実なのか、
解釈なのかに分別してみましょう。
作品はコチラ↓
![いかさま師](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2020/09/640px-Georges_de_La_Tour_025-1-300x218.jpg)
作品に対する意見・感想↓
- 登場人物は4人
- 左端の人が悪いことをしている
- 右端の人は若く見える
- 中央の人が目でサインを送っている
- 左端の人が背中のカードを触っている
- 飲み物を持っている人も怪しい
- 右端の人はお金持ち
- 右端の人の前にコインがたくさんある
- なんか机が小さくみえる
分別できましたか?
正解はコチラです↓
- 事実の意見
⇒①、⑤、⑧ - 解釈の意見
⇒②、③、④、⑥、⑦、⑨
このように1人VTSをする場合は
事実と解釈にわけて鑑賞を行うことで、
1つの作品から得られた情報や感情を
より細分化できるのでオススメです。
対話型鑑賞の効果
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2020/09/startup-3267505_640-1.jpg)
対話型鑑賞のような
見方や考え方を実践することで、
観察力や批判的思考力・言語能力など
が鍛えられることが実証されています。
また、誰が見てもそうだとわかる事実と
自分だけのものの見方である解釈とを
区別することで、
自分自身の価値観と向き合う
きっかけにもなります。
まとめ
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2020/09/woman-thinking-1149362_640-1.jpg)
✓解説や作品名を見ずにしっかり鑑賞、
なにを感じ取ったかに意識を向ける
✓事実と解釈に分けて、
作品から得たイメージの原因を探る
✓脳の複合的な能力を
伸ばすことが実証されている
最後に、
私はココナラでオンラインVTSを
出品しています。
もしVTSに興味があって、
体験してみたい方はご活用ください!
また、不定期で
無料VTS体験会もやっているので
ブログタイトル下のバナーも
チェックをお願い致します!
![thumbnail](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/08/サムネ-300x200.png)
本でVTSを学びたい方は
こちらがおススメです↓
→知識に頼らない鑑賞法
→作品とのやりとりに焦点を当てる
→誰が見てもそう思うのは事実
→自分だけそう思うのは解釈