初期バロックの特徴は
劇的な構図や明暗強調にあります。
また、そのような絵画が好まれた背景には
ドイツから始まった宗教革命に対抗すべく
行われた、対抗宗教革命があります。
この記事ではそのことについても
解説していきます。
まずはこの時代の作品の
画像を確認していきましょう。





✓マニエリスム
⇒16世紀半ば~
✓バロック
⇒16世紀末~18世紀初頭
バロック美術の特徴

バロックとは
16世紀末~18世紀初頭にかけての
美術を総称する言葉で、
ポルトガル語で歪んだ真珠を意味する
バロコが語源となっています。
古典的美術から逸脱し、
奇妙な美術を軽蔑する
意味が込められていました。
対抗宗教革命

バロック美術を語るうえで
知っておきたいのが対抗宗教革命です。
ドイツのマルティン・ルターが
発端となり起こった宗教革命は、
カトリックとプロテスタントの
分派に繋がりました。
カトリック教からすれば信者が減り、
教会存続に関わる大事件でした。
そこでカトリック教は
プロテスタントに対抗すべく、
対抗宗教革命をすすめます。
対抗宗教革命とはその名の通り、
宗教革命に対抗する運動のことで
簡潔に言えばカトリック教会の信者を
増やすことを目的に行われました。

具体的には全世界へ布教伝導の徒を
放ったことなどがあげられます。
フランシスコ・ザビエルが布教のため
来日したことは有名ですね。
また対抗宗教革命では布教活動だけでなく、
(布教のための)美術の見直しも
積極的に行われました。
では、対抗宗教革命で美術は
どのように変化していったかというと↓
- 単純で純粋な形
- 知性よりも感覚に呼びかけるもの
- 技巧よりもデコールム(適切さ)
これらの要素が重要視されました。
特に②の要素をわかりやすく言うと、
(布教のため)鑑賞者にもっと
インパクトを与え、感動させるものが
良いとされ、そのために劇的な構図や
明暗強調が用いられました。
反対にマニエリスムのような
難解さや知性を感じる美術は
求められなくなっていきます。
カラバッジョ「聖マタイの召命」

カラヴァッジョ(1571~1610)は
初期バロック時代を代表する画家であり、
後のバロック美術に多大な影響を与えた
人物です。
彼の作品の特徴は卓越した写実性と
光と闇の様式(明暗強調)です。

彼の作品は対抗宗教革命が求める
宗教画(鑑賞者にインパクトを与えるもの)と
呼応し、高い人気を博しました。

その一方で極端に民衆的な描き方をして、
デコールムに欠けるとの批判もありました。
(特徴の③)
デコールムとはラテン語で適切性を
意味する言葉で、表現やモティーフが
主題にふさわしいかどうかを指しています。
画像の「聖マタイと天使」では
聖人が脚をむき出しにしていることや、
天使との距離が近すぎて
淫らに見えるなどの批判がありました。

カラッチ「エジプトでの逃避」

アンニーバレ・カラッチ(1560~1609)も
イタリア初期バロック美術を代表する
画家の1人です。
アンニーバレは兄のアゴスティーノと共に
ボローニャに絵画学校を創設し、
ボローニャ派を代表する画家でもあります。
アンニーバレは線描画のディセーニョと
ヴェネツィア派のコロリートを研究し、
理想的風景画と呼ばれるジャンルを確立しました。
風景画を宗教画や神話画などと同列までに高めることを目指したジャンル。後のクロード・ロランらにも継承される

バッカスとアリアドネの勝利

こちらはアンニーバレの描いた天井画です。
画像では分かりにくいですが、
この作品にはクアドラトゥーラという
平坦な天井を立体的にみせる技法が
使われています。

カラヴァッジョの作品と比べると
劇的でドラマチックな作風ではなく、
古典的なものに近い感じがしますが、
カラッチの作品はマニエラ(様式)と
ナトゥーラ(写実)の調和が取れた様式
と評されています。
↓クアドラトゥーラを使った他の作品↓

まとめ

✓カトリック教では対抗宗教革命の一環として美術の見直しが行われた
✓カラヴァッジョの特徴は写実性と光と闇の様式(明暗強調)
✓アンニーバレ・カラッチは理想的風景画というジャンルを確立した
✓平坦な天井を立体的に見せる遠近技法をクアドラトゥーラという
次回はイタリアでの盛期バロック美術を解説します。
✓対抗宗教革命の最中
✓劇的な構図や明暗強調が好まれた
✓カラヴァッジョやカラッチ一族が活躍