この記事は
山田五郎さんのYoutubeチャンネルである
「山田五郎オトナの教養講座」より、
動画の内容を文字に起こして
解説していくものです。
第4回目のタイトルは
【なぜ丸出し?民衆を導く自由の女神】
今回は世界史の授業などでも
みたことがある、ドラクロワの
有名作品についてです。
まだ動画をみてない方は
是非ご覧になって下さい。
文字の方が理解しやすい方は
ぜひ最後までお付き合いください。
目次
なぜ丸出し?民衆を導く自由の女神
![Statue of Liberty Leading the People](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/06/606px-Eugene_Delacroix_-_La_liberte_guidant_le_peuple-1-300x237.jpg)
ドラクロワの代表作である
「民衆を導く自由の女神」。
あなたはこの作品が
なにを描いたものか知っていますか?
フランス革命?
いいえ、違います。
フランス革命は1789年に起きた革命です。
一方この作品の制作年は1830年。
ですのでこの絵はフランス7月革命を
描いた絵になります。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/07/サムネ-1-300x200.png)
当時のフランスは革命に次ぐ革命で、
政権が何度も変わるほど激動の時代でした。
1789年のフランス革命では
王政が廃止され、共和政が始まりました。
次にナポレオンが台頭し、
帝政を開始しますが1814年に失脚し、
再びフランスは王政となります。
しかし王政復古で王位についたルイ18世は、
時代錯誤もはなはだしい政治を行ったため、
国民の不満は再び強まりました。
そこで今度は国民によって選出された王、
ルイ・フィリップを王位に就かせようと
巻き起こった革命がフランス7月革命です。
王政⇒共和制⇒帝政⇒王政(王政復古)
ロマン主義とは?
![Eugene Delacroix](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/06/349px-Felix_Nadar_1820-1910_portraits_Eugene_Delacroix-1-218x300.jpg)
今作を描いたドラクロワは
ロマン主義の代表的な画家とされています。
ではロマン主義とは
どんな意味なのでしょうか。
ロマン主義の語源はロマンス語から
きているとされます。
その昔、ヨーロッパでは
公用語としてラテン語が使われていました。
古代ローマで使われていた言語。ヨーロッパで学術・宗教用語として広まった
そのラテン語が各地域で
訛っていったことによって、
現在のイタリア語やフランス語、
スペイン語などに派生したと
いわれています。
そしてロマンス語とは、
ラテン語の訛り言葉そのものをさします。
現在のヨーロッパでは公用語として
ラテン語が使われており、
口語としてはロマンス語が使われています。
日本でも公文書は漢文で、
ひらがなは和歌などの恋愛を歌う際に
使われたりしますね。
日本でもヨーロッパでも、
恋愛などをえがくときには共通して
口語が使われます。
そこからロマンス語を使うような
物語をロマンティックとよんだりします。
![Oath of the Horatii Brothers](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/07/623px-Jacques-Louis_David_Le_Serment_des_Horaces-1-300x231.jpg)
美術界では、ラテン語のような
しっかりしたものを古典主義といいます。
一方ロマン主義は古典主義に対抗して
新しい美術を目指した運動を意味します。
古代ギリシャ・ローマの文化や芸術を理想とする思想のこと
ロマン主義の特徴は?
次にロマン主義の特徴ですが、
ロマン主義と対局に位置する
新古典主義の作品と比べると
特徴が掴みやすいです。
まずは今回の作品↓
![Statue of Liberty Leading the People](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/06/606px-Eugene_Delacroix_-_La_liberte_guidant_le_peuple-1-300x237.jpg)
次に新古典主義の画家、
アングルの「ホメロス礼賛」↓
![Praise for Homer](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/07/628px-Jean_Auguste_Dominique_Ingres_Apotheosis_of_Homer_1827-1-300x229.jpg)
2つを比較すると、
決定的に違う部分がいくつかあります。
まずはテーマです。
新古典主義の作品では
ホメロスというギリシャ時代の詩人を
テーマにしています。
一方のドラクロワの作品は
1830年の7月革命がテーマです。
実はそれまでの西洋絵画で
最近の出来事をテーマにすることは
ほとんどありませんでした。
古典主義では歴史画のように
昔のことをテーマにすることが多いので、
最近のことをテーマにしただけでも
ロマン主義は革新的でした。
次に筆のタッチです。
古典主義では筆のタッチを
残さないよう滑らかに仕上げるのが
常識とされていました。
しかしロマン主義では
筆のタッチを残しています。
3番目に構図です。
古典主義の構図は
背景や人物たちが三角形かつ左右対称に
まとまっています。
歴史画や神話画ではこのような
安定してみえる構図を採用するのが
普通でした。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/07/628px-Jean_Auguste_Dominique_Ingres_Apotheosis_of_Homer_1827-1-300x229.jpg)
ところがロマン主義では
そのような安定した構図は
使っていません。
それはロマン主義では、
動きをだすような構図に
しているからです。
![Statue of Liberty Leading the People](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/06/606px-Eugene_Delacroix_-_La_liberte_guidant_le_peuple-1-300x237.jpg)
筆のタッチに関しても、
あえて残しているのは
動きを表現するためです。
まさに、
古典主義の作品が静だとすれば
ロマン主義は動。
ロマン主義がいかに
それまでの西洋絵画の規範となっていた
古典主義と対局にあるかがわかります。
- 今のことをテーマにしている
- 筆のタッチを残している
- 構図で動きをだしている
ロマン主義のもう1つの特徴
実は今回の作品には
ドラクロワ本人が描かれています。
作品左側にいる銃を持った人物です。
![民衆を導く自由の女神](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/07/606px-Eugene_Delacroix_-_La_liberte_guidant_le_peuple-1-300x237.jpg)
勇敢な男性のように描かれていますが、
ドラクロワは革命に参加していません。
つまり盛っているわけです。
実際に起きた今の出来事をテーマに
描くロマン主義ですが、
忠実に事実を描くわけでもありません。
この点もロマン主義の特徴といえます。
そして今回の話のテーマである、
胸を丸出しにしている中央の女性。
この女性こそ実は、
最大に盛っている部分なのです。
丸出しの女性は誰?
![Statue of Liberty Leading the People](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/06/606px-Eugene_Delacroix_-_La_liberte_guidant_le_peuple-1-300x237.jpg)
胸を丸出しにしている女性は
マリアンヌと呼ばれる架空の人物です。
マリアンヌはフランスでは
自由の象徴であり、フランスの象徴
とされています。
![statue of liberty](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/07/319px-USA-NYC-Statue_of_Liberty-1-200x300.jpg)
アメリカにある自由の女神も
アメリカが独立した際に
フランスから贈呈されたもので、
マリアンヌです。
しかし実際の革命を描いた作品で、
架空の女神を描くのはややこしい気もします。
ところが当時の人には
マリアンヌの存在を知らなかったとしても、
丸出しの女性が架空の人物であることが
すぐにわかるポイントがあるのです。
ヌード=架空の人物
![Birth of Venus](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2020/03/IMG_1001-300x192.jpg)
そのポイントこそ、裸であることです。
西洋絵画ではギリシャ神話のヴィーナスなど、
実在しない人物だから裸で描いてもよいという
暗黙の了解が存在しました。
これを山田さんは
非実在ヌードと表現しています。
そしてその暗黙の了解は
いつの頃からか逆転をして、
裸で描いているから実在しない人
という解釈に変わります。
実在しない人だから裸で描くではなく、裸だから実在しない人
ルーベンスによる作品の例
![peter paul rubens](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/07/350px-Rubens_Self-portrait_1623-1-219x300.jpg)
フランドルの画家、
ルーベンスの作品にも非実在ヌードの解釈を
逆転させた作品があります。
それがこちらの作品です。
![Regent Marie's Bliss](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/07/379px-Peter_Paul_Rubens_040-1-237x300.jpg)
これはマリー・ド・メディシスという
フランス国王の母を描いた作品です。
中央に君臨する女性がマリーですが、
胸が丸出しです。
しかもこの時マリーは存命で、
架空の人物ではありません。
国王の母を胸丸出しで描いて大丈夫なのかと
不安になりますが、ルーベンスはマリーを
女神として讃えるために丸出しにしました。
まとめ
![Statue of Liberty Leading the People](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/06/606px-Eugene_Delacroix_-_La_liberte_guidant_le_peuple-1-300x237.jpg)
✓ロマン主義の特徴は
今の出来事をテーマにしたこと
✓西洋絵画には架空の人物なら
裸で描いてよいという
暗黙の了解があった
✓裸だから架空の人物であるという
逆転の解釈を利用した
今回はロマン主義の特徴と、
非実在ヌードがポイントでした。
ちなみにロマン主義の後には
写実主義の時代が到来し、
「盛って描くこともダメ」という
考え方が広まります。
時代によって変わるのも
西洋絵画の面白いところですね。
次回はミュシャについてです。
→ロマンス語からきている
→文語と口語
→古典とは違う美術
→最近の出来事をテーマに
→静と動
→非実在ヌードの逆転解釈