人はなぜ絵を描くのか

 

記事の要約

☑人はなぜ絵を描くのか

☑絵を描く人類にしかない能力

☑イメージする/カテゴリー化する


 

人類は石器時代から絵を描いていたことが
わかっています。
また、作例として残っていたのが
旧石器時代のものだっただけで、
本当はもっと古くから絵を描いていた
可能性も大いにあります。

原始美術
ショーヴェ洞窟の壁画

 

以前、私は
美術はなぜ存在するのかという
記事を書きました。

今回は美術以前の、
人はなぜ絵を描くのかという
より根本的で、人間の
本質に迫る内容です。





人はなぜ絵を描くのか

 

アート

ホモ・サピエンスの歴史で文字をもたない
文化はめずらしくありません。
しかし絵や彫刻、身体装飾などの芸術を
もたない文化はありません。

それだけ芸術と文化は切り離せないもので、
深い結びつきがあるようです。

斎藤亜矢さんの
著書「ヒトはなぜ絵を描くのか」には
人の本質に迫るために行われた
チンパンジーとの比較実験の内容が
記されています。

人とチンパンジーのDNAの差はわずか1.2%。
人間と同じ祖先をもつチンパンジー
は言い換えると、
絵を描かない人類ともいえます。

そこで絵を描く人類と
絵を描かないチンパンジーとを
比較することで、
人の本質を解明しようと試みた内容です。

人の子供とチンパンジー

 

赤ちゃん

1歳の子供にペンと紙を渡しても、
当然、いきなり絵は描き始めません。
ペンを口に入れたり、空中で振り回したり、
色々とやってるなかで偶然ペンと紙が接触する。

そこでインクが紙に写る。
その現象に気付くと今度はペンを紙の上で
滑らせてみる。線ができる。

このような動作の中で子供は
ペンと紙とを関連付けて、理解していきます。
この能力を定位操作といいます。

この頃は絵を描くというより、
身体的な探索の痕跡だといわれています。

最初のうちはペンを紙に押し付ける力が
異様に強かったりしますが、経験を積むにつれて
次第と描線のレパートリーが増えていきます。

 

チンパンジー

一方、チンパンジーの子供はどうでしょう。

研究に参加したチンパンジーは当時5歳。
彼らも人と同じように最初はペンで遊んだり
していたものの、定位操作から次第と
ペンで紙の上に線を描けるようになります。

実はこの定位操作1つにしても
かなり高度な知性が必要で、
人以外で定位操作ができるのは
チンパンジー,ゴリラ、オラウータン、
オマキザルなどの仲間だけだそうです。

人とチンパンジーで違ったこと

 

赤ちゃん

実験を通して人とチンパンジーの子供で
共通してもっている能力がわかりました。

1つ目は先程の定位操作
身体的な探索を経て物と物を
関連付けて学習することができます。

2つ目は運動調整能力
人の場合、横線を模倣できる
ようになるのが平均2歳4か月。
縦線が2歳6か月。円が2歳11か月。
十字が3歳5か月。正方形が4歳といった
感じで、年齢と共に複雑な図形を描くだけの
運動調節能力が向上していきます。

チンパンジーもかなり練習はしたものの、
横線の模倣課題に成功。
つまり、人でいう2歳4か月程度の運動調整能力が
あるのがわかりました。

3つ目は描かれた表像の理解
なにが描かれているのかを
理解する能力です。
チンパンジーに、目・鼻・口の
パーツが切り取られた顔写真を見せ、
それぞれのパーツを並べる課題を行いました。
福笑いのようなものですね。
すると、この課題にも成功する
チンパンジーがいました。

これだけチンパンジーは
人の能力に近しいものをもっているのですね。

そんな人と変わらないくらい
絵を描くのに必要な能力をもっている
チンパンジーですが、
人とは大きく異なる結果を示したものが
ありました。

それが補完課題です。
例えば次のような絵を見せます。

補完課題

目が抜けている猿の絵です。
ペンと絵をわたすと
人(2歳半~3歳)の場合は、

「あれ、おめめない」と、
(目が)ない部分を補完するように
マーキングしたり、目を書き入れたりします。

一方のチンパンジーだと、
ある方の目を塗りつぶしたり、マーキング
したりします。

補完課題
チンパンジーが書いたもの

何度繰り返しても、
チンパンジーがないものを
書き足すことはありませんでした。

人がもつ能力

 

人は3歳ごろから、
曖昧な形に具体的なモノのイメージを
見立てて描くことができるようになります。

例えば、
円が書いてある紙をわたすと、
「アンパンマンだ」と
いって目や口を加えて
アンパンマンを描きます。

平行線が書かれている紙をわたすと、
「せんろ」といって横線を加えて
線路にしたりします。

実はこの能力、壁画にも
共通してみられます。

洞窟の壁には凹凸があったり
形状も様々で、私たちの祖先も
その形状を動物に見立てて
描いています。

壁画

どうやらこの(目の前に)ないものを
イメージして描く能力
人類にはあるようです。

カテゴリー化

 

更に研究を重ねると、
人のイメージする力は
言語能力の発達と比例する
こともわかってきました。

また、イメージする力は
カテゴリー化とも言い換えることが
でき、私たちはこれまでの記憶から
最も近しいもの(カテゴリー)を
イメージすることもわかっています。

例えばこの画像を見て下さい。

 

イメージ実験

上下で違うカテゴリーの画像が
連なっていますが、
不思議なことに右端の画像は
見え方が異なります。

上のカテゴリー(人の顔)では
眼鏡をかけたおじさんに見えるのに
対し、下のカテゴリー(動物)では
ネズミに見えますよね。

このように私たちの脳は
みえる対象を自動的にカテゴリー化
しています。

月の中のウサギなんかも
昔の人が月の模様を
ウサギにイメージしたことから
始まっていますね。

絵を描く理由

 

本題に移ります。

人はなぜ絵を描くのか。
この問いに斎藤亜矢さんは
「楽しいから」と述べています。

身も蓋もない
回答のように思われるかもしれません。
しかしここには人が人であるための
メッセージが込められています。

普通、チンパンジーの実験では
餌を用いることがほとんどだそうです。
それはチンパンジーがなにか報酬を
得られないと学習意欲がわかない
ことにあります。

しかし、絵を描く課題で
餌は必要ありませんでした。
彼らは勝手に絵を描くことを
楽しんだのです。

人間の場合も同じです。

人間の場合、抽象的なものから
なにかイメージをもってそれを
表現する機会になります。
そしてそれは誰かとの
コミュニケーションの一部にも
なり、イメージを共有する
楽しさにも繋がります。

特に子供の頃にみる世界は
知らないことばかりで、
なんのカテゴリー化もされていません。
そこにはただただ新鮮な世界が
広がるだけです。
そんな世界を絵を使って、
五感を使って表現する。

人が絵を描く原動力は、
純粋な楽しさにあるようです。

みなくなった世界

 

言語能力が発達し、
大人に近づいてくると世界の
カテゴリー化が進んでいきます。

子供の頃の世界は
知らないもので溢れていましたが、
大人になると世界は
知っているもので溢れていきます。

一度カテゴリー化すると、大人はもう
必要以上にみようとはしません。

自分の行動に必要なモノだけに注意を向ける「選択的注意」も、
おとなになるについて巧みになり、
そもそも必要なモノしか目を向けていないということもある
齋藤亜矢「ヒトはなぜ絵を描くのか」 89頁

人にとって絵を描くことは
楽しいことでした。
しかし大人になるにつれて
楽しいことは必要性の薄いことに
変換されてしまいます。

そのことは同時に
なにかを失ったことでもあり、
私たちはそれすら
気付いていないことがあります。

人が絵を描くことの理由は
そんなメッセージを
思い出させてくれるようです。

まとめ

 

☑人にはないものを想像する力がある

☑人は自動的に世界をカテゴリー化する

☑大人になると必要と思うもの以外はみない

色即是空という仏教の
言葉があります。

私はこの言葉の意味を、
いまあなたが見ている世界は
あなた自身が決めている世界である
と解釈しています。

人が絵を描く理由と、
世界をカテゴリー化する能力を
知った時、この言葉に
通ずるものを私は感じました。

本記事で参考・ご紹介した
「ヒトはなぜ絵を描くのか」

には他にも心に響く言葉がたくさん
あります。

ご興味のある方は
是非、手に取ってみて下さい。