突然ですが、
あなたは美術館のディスクリプションにも
書いてあるフレスコやテンペラという
技法がどんなものかご存知ですか?
よくわからずにスルーしている人も
多いのではないでしょうか?
西洋美術史は
絵画技法の歴史でもあります。
知ってる人も知らない人も、
この記事で技法についての理解を
深めておきましょう。
絵画の技法について
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/06/hands-1868562_1280-1-300x200.jpg)
絵画技法は面白いことに
当時の経済と密接に関係してきます。
お金がある時代にはお金が掛かる
技法で作品を作り、
そうではない時代には極力コストを
抑えた方法で作品を作ります。
もちろん、科学的な進歩と共に
発展した技法もあります。
ここから順に技法をみていきましょう。
モザイクとは?
![ユスティニアヌス帝と随臣](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2020/03/Meister_von_San_Vitale_in_Ravenna_003-300x221.jpg)
まずはモザイクです。
モザイクとは色のついている石やガラスを
小さく砕き、漆喰を塗った壁に埋め込んでいき
模様を描く技法です。
石やガラスを砕いた欠片のことを
テッセラとよびます。
テッセラは発色がよく、太陽光にあたる
面積も少ないのであまり退色もしません。
模様の表面に金箔を貼って、更に
煌びやかにすることもありました。
![ユスティニアヌス1世](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/07/355px-Meister_von_San_Vitale_in_Ravenna-1-222x300.jpg)
しかしこのモザイクは壁一面に
テッセラを1つずつ並べていくので
かなりの労力を使う技法です。
また、顔料となる色石を細かく
粉末状にしたりせず、欠片として
使うのでコストもかかります。
よってモザイクは皇帝や教会など、
注文主が莫大な財力をもっていた
時代によく使われた技法でもあります。
フレスコとは?
![アテナイの学堂](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2020/09/621px-Raffael_058-300x232.jpg)
先ほどのモザイクは
かなりの労力とコストが掛かる他に、
壁にテッセラを半分だけ埋め込む技法なので、
少しの地震でも崩れてしまう脆さが問題でした。
その点を克服できるのがフレスコです。
フレスコは色のついた石やガラスを
粉末状にし、それを水または石灰水で
溶かして漆喰を塗った壁に塗るという
技法です。
壁に塗った漆喰が乾ききらないうちに
顔料を塗らないといけないので、
漆喰がまだフレスコ(新鮮)という
意味でその名がついています。
この技法は漆喰が乾くときに顔料も
一緒に壁と一体化するので、
モザイクより定着力がある上に
筆で描くため細かな造形も可能でした。
また、石を粉末にして薄く伸ばして使うので
石のまま使うよりコストを大きく削減
できました。
難点としては、
漆喰が一度乾いてしまうと
やり直しができないことです。
よって制作者の高度な計画と
技術力を必要とする技法でした。
テンペラとは?
![ヴィーナスの誕生](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2020/03/IMG_1001-300x192.jpg)
ここまで登場したモザイク、フレスコは
両方とも壁一面に漆喰を塗って描く技法で、
裕福なパトロンでないと注文できませんでした。
その一方で中世~初期ルネサンスには
テンペラ(板絵)という技法が盛んに用いられます。
板絵には漆喰ではなく、顔料を板に
定着させるために固定材を使います。
そして顔料と固定材を合わせるために
卵が使われ、ラテン語で「混ぜ合わせる」と
いう意味のテンペラが技法名となりました。
板は入手がしやすく、それまでの技法と違い
テンペラは塗り直しが可能でした。
ところが木の板は湿気に弱く、
表面が反り返って顔料が剥がれ落ちることも
ありました。
また、当時の板はまだ重量があり、
持ち運びも困難でした。
油彩とは?
![ファン・デル・パーレの聖母子](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/599px-La_Madone_au_Chanoine_Van_der_Paele-1-300x240.jpg)
油彩は顔料と固定材を合わせるのに
卵ではなく、油を使った技法をさします。
油彩はフランドルのファン・エイク兄弟により
完成されました。
油彩絵具はテンペラよりも透明性が高く、
粘稠度も高いことから光沢のある画面を作る
ことができました。
![油彩絵具](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/07/640px-Oil_colorCadmium_Red_Medium_and_Pyrrol_Crimson-1-300x200.jpg)
また油彩は遅乾性であり、テンペラより
精緻な描写が可能でした。
この油彩は絵画技法に大きな発展を
もたらしたと言われています。
キャンバスの誕生
![キャンバス](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/07/Splined_Canvas-1-300x279.jpg)
フランドルで油彩が完成された頃、
イタリアのヴェネツィアではキャンバスが
生まれました。
港町のヴェネツィアでは船の帆に使う
布が溢れていたのです。
キャンバスは板よりも安く、
反り返ることもなく、持ち運びも
しやすかったので大人気となりました。
17世紀のオランダ
![夜警](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/07/590px-The_Nightwatch_by_Rembrandt_-_Rijksmuseum-1-300x244.jpg)
17世のオランダでは油彩画が
一般的になっていました。
そこにイタリアで生まれた
キャンバスが導入されると、
油彩+キャンバスという現代でも
主流な制作が盛んになりました。
当時のオランダは商人が力を持ち、
家の壁を飾りたいという彼らの要望に
持ち運びも楽で安価な油彩+キャンバスの
組み合わせは最高でした。
銅版画
![銅版画](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/Graveur-1.jpg)
15世紀のドイツでは銅版画が発明され、
テンペラや油彩による絵画に
匹敵する作品が登場し始めます。
銅版画とは金属板に針で引っ搔いて
図柄を描き、凹部にインクを流して
紙に刷る画のことです。
![アルブレヒト・デューラー](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/348px-Albrecht_Durer_-_Selbstbildnis_im_Pelzrock_-_Alte_Pinakothek-1.jpg)
優れた銅版画で知られる画家に、
アルブレヒト・デューラーがいます。
盛期ルネサンスに活躍したイタリアの画家
ラファエロとも親交のあった彼は
遠近法や人体比例論を研究すると共に、
ドイツでの芸術家の地位向上に寄与しました。
![騎士と死と悪魔](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/376px-Duerer_-_Ritter_Tod_und_Teufel_Der_Reuther-1.jpg)
まとめ
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/07/art-ge418a8b8a_640-1-300x200.jpg)
✓モザイクは莫大なコストと労力が掛かる
✓モザイク、フレスコは壁に絵を描く技法
✓油彩+キャンバスが手軽で最高な組み合わせ
✓15世紀のドイツでは銅版画が発明された
ちなみに印象派の時代に入ると、
チューブ入り絵具が誕生して
屋外での制作が可能となります。
時代と共に移り変わる技法の歴史。
美術館にいく機会があればぜひ、
テンペラや油彩など技法別に
作品を見比べてみても面白いですよ。
✓技法によって費用が大きく変わる
✓時代によって主流が変わる
✓大きなものから小さいものへ