あなたはよく美術館に行きますか?
よく行くという人には別の質問です。
これまでに行った展覧会のことを
どれだけ覚えていますか?
この記事では美術館の来館者が
実はよく作品を見れていないという話を
いくつかの研究をもとに解説します。
美術館によく行くという人も、
これから行きたいという人も
是非頭に入れておきたい内容です。
ある美術館の研究

とある美術館では、
来館者が1つの作品に費やす
鑑賞時間が調査されました。
すると平均して10秒前後という
統計データが出ました。
この平均値の中には
興味が湧かず素通りした作品なども
含まれているでしょうが、
それでもよく鑑賞して数分くらいといえます。
また別のギャラリートークに関する研究では、
参加者はプログラム終了直後でも
ギャラリーガイドの内容を
ほとんど記憶していないという結果でした。
これらの統計に衝撃を受けた
MOMA(NY近代美術館)の館長は
対話型鑑賞という鑑賞法を考案するのですが、
それはまた別の記事で解説します。
五感と情報処理の話

人間が五感で受け取る外部の情報量は、
視覚が最も多いことがわかっています。
その割合は、
- 視覚 83%
- 聴覚 11%
- 嗅覚 3.5%
- 触覚 1.5%
- 味覚 1%
よって外部の情報の約8割を
目から受け取っています。

一方人間が周囲の環境から収集する
情報量をデータ量に換算すると、
毎秒10億bitに達するといわれています。
それに対して人間が毎秒処理できる
情報量は10bitだけだそうです。
つまりほとんどの情報を目から
受け取ってはいるものの、
処理できているのは僅かということです。
作品からなにを得られているのか

これまでの調査結果を合わせると、
10秒前後作品を見ただけで
私たちはどれだけの情報を
作品から得ることができるのでしょうか。
おそらくほとんど得られていません。
作品との向き合い方がわからないなど、
この事実に関係するのは
鑑賞時間だけの問題ではないと思います。
ですがこの事実はとても興味深く、
いろんな示唆に富んでいます。
逆に美術館に行きたいけれど、ハードルが高くて行けないと感じている方には安心材料かもしれません。他の人も作品を見ているようで見ていないのですから
美的発達段階との関連性

1996年に心理学者のパーソンズは
美的経験の段階性を提唱しています。
簡単に言えば、
美術鑑賞をする側のレベル分け
のようなものです。
そこでパーソンズは
来館者の約8割がstageのⅠかⅡ、
つまり美術館にいる鑑賞者の多くが
深く作品を見れていないと述べました。
鑑賞時間との相関研究はありませんが、
鑑賞時間と鑑賞の深さには
なにかしらの関係がありそうですね。
作品との向き合い方

ここまで多くの人の鑑賞時間が短く、
作品からあまり情報を得られていない
ことを示してきました。
ですが鑑賞時間を増やせば
得られる情報量は増えるのでしょうか?
答えは△。
長く見ればある程度、
情報量は増えることでしょう。
ですがそれよりも
なにを考えながら鑑賞するのか
が気になる人も多いと思います。
鑑賞時間が短いのは、
作品との向き合い方がわからない
という理由もあると思われるからです。
そしてそんな方には是非、
MOMAで生まれた対話型鑑賞がオススメです。
まとめ

✓ある美術館の調査では、
1作品に費やす平均時間は10秒前後
✓人間が周囲の環境から収集する
データ量は毎秒10億bit。
そして毎秒処理できる情報量は10bit。
✓鑑賞時間が短いのは、
作品との向き合い方がわからない
というのもありそう
→平均して10秒前後
→視覚からの情報が8割
→情報処理量は僅か