西洋美術を鑑賞するうえで、
美術と宗教の関係を理解しておくのは
重要ですよね。
そこでこの記事では、
カトリックとプロテスタントの美術
について解説します。
カトリックとプロテスタントの美術

1517年にルターが起こした宗教革命は、
カトリックからプロテスタントという
新教の分離へと発展させました。
プロテスタントは聖書に
記されていることだけを拠りどころにし、
旧約聖書にある偶像崇拝の禁止の戒めを
基にしてイコンや聖遺物崇拝を禁止しました。
反対にカトリックはプロテスタントに
対抗する形をとり、人々を信仰に導くため
鑑賞するものを引き付けるような
ドラマチックな表現を追求しました。
カトリックの美術

宗教革命が起きたバロック時代に
カトリック教が占めていた国は、
イタリア、スペイン、フランス、フランドル
などがあります。
カトリックの美術に特徴的なのは
鑑賞者を惹きつけるような
ダイナミックな構図や明暗の強調、
デコールム(適切さ)です。

こちらはイタリアのカラバッジョが
描いた「聖マタイの召命」です。
ルネサンスやマニエリスムの作品と違い、
明暗が強調されたドラマチックな表現を
しています。

次にフランドルの画家、
ルーベンスの「キリスト昇架」です。
イエスの十字架をまさに持ち上げようと
している場面を劇的に描いています。
このような表現法は文字が読めない信徒たちに
キリストや聖人が行った奇跡を信じさせ、
宗教心に訴え、帰依させようとする
目的がありました。
無原罪の御宿り

カトリック美術のもう1つの特徴に、
イエス以外の聖母や聖人も崇拝の対象で
あったことがあげられます。
画像の「無原罪の御宿り」はカトリックが
プロテスタントに対抗するため、
特に力を入れたテーマの1つです。
これはイエスだけでなく、
母のマリアも神の意志によって
原罪を免れて生まれた存在である
とする考え方です。
人は生まれながら罪深い存在とする考え方のこと
聖テレサの法悦

さらにカトリックは幻視や法悦、殉職などの
テーマを好み、信徒たちにそれをみて共感
してもらうことを狙いとしました。
バロック期の建築は曲線や楕円形を多用し、
派手な内部装飾が特徴的です。
バロック期のイタリアで有名な芸術家
にベルニーニがいます。
彼の代表作の1つ「聖テレサの法悦」は、
16世紀スペインカトリック教会の修道女
聖テレサの神秘体験をテーマにしたものです。
礼拝中に忘我の域に達するまで高揚すること
プロテスタントの美術

プロテスタントが占めていた国は、
ドイツやオランダがあります。
プロテスタントの国ではしばしば
聖像破壊(イコノクラスム)が起こり、
多くの美術品が破壊されました。
そのためプロテスタントの国では
宗教画の割合が低くなり、
別のテーマの絵画が増えていきました。
肖像画

画像の「微笑む騎士」はオランダの画家、
フランス・ハンスの作品です。
貿易で栄えたオランダでは、
市民や商人が絵を買うことが増えました。
それに伴いわかりやすく身近なものを
テーマにした絵画が発達し、
肖像画もその中のジャンルの1つです。

こちらも同じくハンスの作品です。
オランダ絵画で特徴的なものに
集団肖像画があります。
ギルドと呼ばれる職業別の組合から
注文されることが多かった集団肖像画は、
商業で栄えた当時のオランダを象徴する
ジャンルの1つといえるでしょう。
風俗画

日常生活のありふれた事物をテーマにした
風俗画もプロテスタントの国では
多く描かれました。
画像の「牛乳を注ぐ女」は
精緻な筆致で風俗画を描くことで
有名なフェルメールの作品です。
このように、絵画の注文主が
教会から市民に変わったことで、
家庭に飾るのに適した身近で
親しみやすいテーマが確立されていきました。
まとめ

✓カトリック教は絵画のビジュアルで信徒に訴えかけた
✓カトリック美術の特徴はダイナミックで劇的なこと
✓プロテスタントの国では宗教画以外のテーマが発展した
今回は美術と宗教、
特に宗教革命以降の動向を
解説しました。
美術は宗教の他にも政治や経済、
社会とも密接に関わっています。
興味のある方はぜひ他の記事も
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✓宗教革命以降の美術動向
✓ビジュアル戦略のカトリック
✓美術と宗教が解離したプロテスタント