この記事はYoutubeチャンネル
「山田五郎オトナの教養講座」より、
内容を文字にして解説していくものです。
第8回目のタイトルは
【エトワールは元祖NTR絵画?!】
前回のモネに続き、今回は印象派である
エドガー・ドガの作品についてです。
まだ動画をみてない方は
是非ご覧になって下さい。
文字の方が理解しやすい方は
ぜひ最後までお付き合いください。
エトワールは元祖NTR絵画?!

「エトワール」は1876年、
エドガー・ドガによって描かれました。
「舞台の踊り子」という別名でも
知られている本作品ですが、
あなたは踊り子の後ろにいる黒い人物が
気になったことはないでしょうか?

白枠で囲った部分にいる
人物のことです。
舞台袖で顔が隠れていますが、
黒いスーツかなにかを着ているようです。
この人物は一体何者で、
舞台袖で何をしているのか?
そもそもなぜ舞台袖にいるのか?
それが今回のテーマです。

ドガは踊り子の画家の異名をもつ程、
踊り子の絵を何枚も描いたことで
有名な画家です。
モネら印象派のメンバーの一員であり、
第1回印象派展のメンバーでもあります。
しかし彼は他の印象派の画家とは
異なる経歴や特徴がありました。

その1つ目が、
国立美術学校出身であることです。
銀行家の裕福な家庭に生まれたドガは
親から資金を援助してもらい、
パリにある国立美術学校に通います。
そこでドガは古典美術を学び、
古典的な作品を描いていたことが
知られています。

国主催の展覧会であるサロンにも
何度も入選しており、
古典的な画家として
ある程度の評価を得ていました。

2つ目は印象派の先駆的存在である
マネと友人であったことです。
モネなど他の印象派の画家達は
マネがサロンで酷評を受けながらも
革新的な作品を描き続けたことに心を打たれ、
マネを尊敬して一致団結していました。
しかしドガは友人という立ち位置であり、
尊敬とは少し違う理由で印象派の画家達と
行動を共にしました。

3つ目は描き方や対象の違いです。
印象派というと屋外で制作を行い、
自然の光が降り注ぐ街の風景や景色を
描いたイメージがあると思います。
(外光派と呼ばれたりします)

ドガの場合は少し特殊で、
当時使われ始めた人工の光を追求し、
屋内での制作を中心に行いました。
またデッサンの能力が高かったドガは
人物の瞬間的な動きにも興味を示し、
その2つを掛け合わせたのが
バレリーナでした。
人工照明の表現×人体表現
ドガがバレリーナを描いた理由

ここで山田さんはドガが
バレリーナをテーマにした理由が
他にもあるのではないかと話します。
人工照明の表現×人体表現=バレエ(踊り子)
は教科書的な内容で、
実はもっと違う理由が隠されていると。

その隠された理由の1つ目が
踊り子の絵が売れたということ。
モネなどの作品に比べ、
描いた対象がわかりやすいのが
ドガの特徴です。
それもあってかドガの絵は
当時から人気がありました。
また、もとは裕福だったドガですが
銀行家の父親は浪費癖もあり、
第1回印象派展を行った年に
借金を残して亡くなってしまいます。
銀行はドガの弟が引き継ぎますが、
再建できずにドガにも借金が回ってきました。
そんな事情もあり、
人気のあった踊り子の作品を
とにかくたくさん描いたそうです。
たくさん描くための技法

借金返済のためにとにかく
たくさんの作品を売りたかったドガ。
当時の主流は油絵でしたが、
油絵だと1作品を完成させるのに
時間が掛かりました。
そこでドガはパステルでの制作を
中心に行います。
パステルとは粉末の顔料を糊剤で
固めた画材のことです。
乾かす時間のいらないパステルは
速写性に優れていました。
また、ドガの求める踊り子の一瞬の動きを
捉えるのにも相性の良い画材でした。
引用:MAU造形ファイル
加えてドガはモノタイプとよばれる、
油絵具を描写した板に圧力をかけて
イメージを転写する版画技法を用いました。
これにより背景などを
一から描く必要がなくなり、
生産性は更に向上しました。

今回の作品でも踊り子にはパステル、
背景にはモノグラムが使われています。
これらの工夫により
たくさんの作品を売ったドガは、
借金を10年程で返済したそうです。
- 照明と人体の表現を追求
- 売れ線のテーマ
- 量産するための技法に適していた
ドガの屈折した性癖

隠された理由の2つ目が
ドガの屈折した性癖です。
それを説明するのに
今回のテーマが重要になってきます。


実はドガの作品には踊り子だけでなく、
(醜い)男性もいることが多いです。
照明×人体表現を追求するなら
作品にあまり男性は必要がない気もします。
ところが実は彼なりの理由があります。
当時のバレリーナとは?

ドガの描く踊り子は当時、
まだ新しかったパリのオペラ座の
踊り子たちです。
そのオペラ座で踊り子になるには、
お金持ちの愛人になる必要がありました。
(給料が低かったため)
逆に、お金持ちの愛人になりたいがために
踊り子になる女性も多くいました。
踊り子になりたくて愛人になるか、
愛人になりたくて踊り子になるかが
入り混じっているような感じです。

そして今回の作品。
白枠の男性は舞台で踊っている
踊り子(愛人の)のパトロンです。
作品名のエトワールは
フランス語で星を意味しており、
場面はスターダンサーの1人舞台です。
スターダンサーのパトロンですから
オペラ座としてもVIPのはずです。
よって舞台袖まで入ることを
許可しているわけです。

この人物はあえて顔が見えないように
描かれています。
愛人の晴れ舞台を袖から見ている
パトロンは一体どんな表情なんでしょうかね。

ここまで説明した
醜い男性×美少女という構成は
それまでの西洋美術史にも度々登場
しています。
2人を対比することで、
若い無垢な女性の性的魅力を際立たせる
効果を狙っているのです。

そしてドガには
どうもそのような性癖があったようです。
これがドガの作品に
(醜い)男性が描かれている理由です。
山田さんはこれらの伝統は
現代にも引き継がれていると話します。
NTRというジャンルが確立されており、
男性を中心に人気があるようです。
ドガの隠された一面
そして更に、
ドガ自身は女性と全く話せない
とてもシャイな人物であったという
友人マネの証言があるようです。
山田さんはその証拠に、
ドガの描く踊り子は正面から
描いたものが1枚もないと話します。
確かにそうかもしれません。

ドガの作品に登場する踊り子の
全てが視線を外されています。
加えて、ドガは女性の背中と脚を
中心に描いていることが多いです。
この理由を山田さんは
女性が苦手な人は女性的な部分を
描くことが苦手なので、
男女差があまりない背中や脚を
描いたと説明していました。
ドガがNTR大好きだったから
まとめ

✓当時のオペラ座の踊り子は
金持ちの愛人
✓ドガには屈折した性癖があった
✓女性が苦手なドガは
踊り子を正面から描けない
今回はドガの作品についてでした。
印象派の中では珍しく、
生きている頃に売れたドガですが、
隠された彼の内面や作品の背景が
たくさんありましたね。
次回はドガの彫刻作品についてです。
→お金持ちの愛人
→醜い男性×踊り子
→ドガの性癖
→正面から描けない