このシリーズでは1つの作品に
隠された時代背景や解釈、
メッセージ性を読み解いていきます。
第1回目はベラスケスの
「ラス・メニーナス」です。
絵画を通して得た知見が
あなたの心のビタミンになれば
幸いです。
ラス・メニーナスを解説
![Las Meninas](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/05/417px-Las_Meninas_by_Diego_Velazquez_from_Prado_in_Google_Earth-1-261x300.jpg)
題名
ラス・メニーナス
制作者
ディエゴ・ベラスケス
制作年
1656年
美術史では
バロック時代のスペイン
寸法
318 cm×276 cm
種類
油彩
所蔵
プラド美術館
今作はバロック時代に
宮廷画家として名を馳せた
ベラスケスによって描かれました。
ラス・メニーナスとは
スペイン語で女官たちの意味で、
マドリード宮殿の一室が舞台と
なっています。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/12/626px-Las_Meninas_by_Diego_Velazquez_from_Prado_in_Google_Earth-260x300.jpg)
中央のマルガリータ王女を
取り囲むように女官たちがいて、
背後に絵を描いているベラスケス、
鏡越しに王と王妃がいます。
何人かはこちらを見つめるように
描かれていて、鑑賞者も一室の中に
いるような複雑な構成になっています。
さて、個人的にですが
この絵には少し違和感があります。
繰り返しますが
舞台はマドリード宮殿の一室で
モデルは王族と女官たちです。
なのに華やかさがないというか、
少し暗くないですか?
中央のマルガリータに
スポットが当たるのはいいとして、
高い天井部分は薄暗く、
その空間の広さからかどこか
湿っぽさにも似た空気を感じます。
近親婚の果て
![princess margarita](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/12/605px-Diego_Rodriguez_de_Silva_y_Velazquez_-_Infanta_Margarita_Teresa_in_a_Blue_Dress_-_Google_Art_Project-1-252x300.jpg)
今作はスペイン・ハプスブルク家が
統治していた時代に描かれたものです。
ハプスブルク家は近親婚を
繰り返しており、
その理由には以下のものがありました。
- 厳格なカトリック政策
→プロテスタントや正教会の王侯と結婚できない - 家格の低い諸侯と結婚できない
→ヨーロッパ屈指の名門の誇り
簡単に言えば
王家としてのプライド、風潮のせいで
縁組できる人がすごく少なかったわけです。
ですのでハプスブルク家は
血のつながりが濃い近親婚を
繰り返すしかありませんでした。
マルガリータの父である
フェリペ4世の子供たちも
ほとんどが早くに亡くなり、
ラス・メニーナス制作中は
跡継ぎの男児がいない時期でも
ありました。
つまり、このまま男児が
生まれなければマルガリータが
スペイン王国に君臨する予定でした。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/07/castle-1998435_640-300x198.jpg)
繰り返された近親婚による
高い幼児の死亡率と、
まだ5歳の女王候補。
抗うことのできない純血主義と
従うしかない女官たち。
ラス・メニーナスにどこか
華やかさがないのはそんな背景が
影響しているのかもしれませんね。
スペイン・ハプスブルク家内の乳児死亡率は、当時の農村部の乳児死亡率より高かった
制作後の話
![Carlos II](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2022/12/561px-Charles_II-1-233x300.jpg)
ラス・メニーナスが描かれた翌年、
待望の男児であるカルロス2世が誕生。
結局マルガリータが王女となることは
ありませんでした。
その後マルガリータは
レオポルド1世のもとに嫁ぎますが、
出産した4人の子供のうち3人は
乳児のうちに亡くなっています。
マルガリータ自身も
次女出産後に21歳の若さで死去。
マルガリータの子供の中で
唯一成長したマリア・アントニアも
3人の子供を出産しますがいずれも早去。
アントニア自身も23歳で死去します。
カルロス2世はスペイン王となりますが、
下顎前突症が著しかったようで
咀嚼に問題があり、
常によだれを垂らしていたそうです。
加えて癇癪や知的障害もあったとか。
近親婚による影響で虚弱体質であり、
数回結婚しますが子供を持つことは
ありませんでした。
メッセージ性
![Las Meninas](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/05/417px-Las_Meninas_by_Diego_Velazquez_from_Prado_in_Google_Earth-1-261x300.jpg)
ここでもう一度
ラス・メニーナスを見てみましょう。
ベラスケスはハプスブルク家の
跡継ぎに対する不安や焦燥感、
どうすることもできない無力感を
この絵に表現したのかもしれません。
一方でそんなことは全く意図してない
可能性も大いにあります。
どのように見えるかは
あなただけのものです。
また、その後のエピソードをも踏まえて
あなたが感じるメッセージ性には
どんなものがありますでしょうか?
栄光と失墜?
肩書きに翻弄された被害者?
高すぎるプライドは身を滅ぼす?
日常は決して永遠ではない?
是非、あなたなりのメッセージを
受け取ってください。
まとめ
![Diego Velazquez](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/05/Diegovelazquezselfportrait-1-250x300.jpg)
✓ラス・メニーナスは女官たちという意味
✓ハプスブルク家は近親婚を繰り返していた
✓ラス・メニーナス制作中は男児の跡継ぎがいなかった
最後に画家のベラスケスについて。
17世紀のスペインでは
画家が高い地位を得ることは
滅多にありませんでした。
絵画はあくまで工芸であって
詩や音楽のような芸術とは
見なされなかったのです。
ところがベラスケスは
フェリペ4世の宮廷で侍従長に任命され、
非常に高い地位と収入を得ました。
その一方で仕事にかなりの時間を
取られていたそうです。
最後まで読んで頂き、
ありがとうございました。
→女官たちという意味
→純血主義。近親婚を繰り返す
→21歳の若さでマルガリータは…