眼=気球を解説

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理学療法士・対話型鑑賞ファシリテーター。 在宅医療に携わりながら、アートを通した自己理解と人間理解を発信しています。

 

記事の要約
  1. 黒の時代
    →幼少期の体験が影響している
  2. 黒の時代の後
    →豊かな色彩を用いるように
  3. 水木しげるに影響を与えた
    →目玉おやじ

 

このシリーズでは1つの作品に隠された時代背景や解釈、メッセージ性を読み解いていきます。第8回目はオディロン・ルドンの「眼=気球」です。

絵画を通して得た知見があなたの心のビタミンになれば幸いです。


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眼=気球を解説

 

eye-balloon
作品概要

題名
眼=気球
制作者
オディロン・ルドン
制作年
1878年
美術史では
象徴主義
寸法
45cm×31.6cm
種類
色紙に木炭、チョーク
所蔵
ニューヨーク近代美術館

今作はフランス象徴主義の画家、ルドンによって制作されました。

幻想的な世界を好んで題材にした彼の初期の作品は「黒の時代」と呼ばれています。同時期にはあの印象派の活躍もありました。

しかし、ルドンは全く趣向の異なる作品を多く手掛けています。

 

cactus man
「サボテン男」1881年

一切の色のない作品は木炭のみで描かれています。描かれているものも非日常的でどこか不安感を感じるものばかり。

ルドンとは一体どんな人物だったのでしょうか?

黒の時代

 

今作を描いた頃のルドンは、木炭を使ったモノクロームの作品を数多く制作していました。ルドン自身は、こうした木炭画をノワール(黒)と呼んでいます。

巨大な眼、奇妙な生き物、浮遊する頭部。現実には存在しないものを、まるで本当に存在するかのように描きました。

 

ルドンは1840年、フランスのボルドーに生まれます。幼少期には家族と離れて暮らし、孤独な時間のなかで自然を眺めたり、空想したりして過ごしたとされています。

しかし、ルドンの作品を幼少期だけで説明することはできません。彼が目を向けていたのは、目の前にある現実よりも、その奥にある「目には見えない世界」でした。

空へ昇っていく「眼」

 

今作の画面中央に浮かんでいるのは、巨大な眼です。

眼にはまつ毛のようなものが生え、気球のように空へと昇っていきます。その下には籠ではなく、皿に載せられた人間の頭部が吊り下げられています。現実にはありえない光景です。

ところがルドンは、それをどこか現実に存在しそうなものとして描いています。

そして、この作品から4年後の1882年。ルドンはよく似た構図のリトグラフを制作しました。

その題名は、「眼は奇妙な気球のように無限へ向かう」。

「眼」は、地上を離れ、無限へ向かっていく。そこには単なる恐怖だけではなく、現実の世界を超えて、まだ見たことのない何かを見ようとする人間の想像力も感じられます。

ただし、この絵に一つの「正解」があるわけではありません。ルドンの作品は、見る人の想像によって意味が変わるような、不思議な余白を持っています。

黒の時代の後

 

close your eyes
「目を閉じて」1890年

1890年代以降、ルドンの作品にはパステルや油彩による鮮やかな色彩が目立つようになります。

暗闇のなかに奇妙な存在が浮かび上がる「黒」の世界から、花や人物、幻想的な生き物が色彩のなかに現れる世界へ。

しかし、作風が変わってもルドンが描こうとしたものは、それほど変わっていなかったのかもしれません。

目に見えるものを使って、目に見えないものを描く。その姿勢は、後の作品にも通じています。

目玉おやじ

 

Medama Oyaji

実はルドンの影響を受けた日本人アーティストがいます。それはゲゲゲの鬼太郎で有名な水木しげるさん。

彼は小学校3年生の時に父親が買ってきたルドンの画集に心を惹かれ、なかでも目をモチーフにした作品を気に入っていたとか。

その後、漫画家となった彼はルドンの作品をインスピレーションにしてあの「目玉おやじ」を生んだそうです。

水木さんは

ルドンとの出会いなくしては、
目玉おやじは生まれなかった

と公言しています。

あなたには、どう見えますか?

 

eye-balloon

ここでもう一度、「眼=気球」を見てみましょう。

巨大な眼は、地上を離れて空へ昇っていきます。その姿を見ていると、不気味さや恐怖を感じる人もいるかもしれません。

一方で、僕にはどこか「解放」のようなものも感じられます。身体を離れ、現実を離れ、眼だけがまだ見たことのない世界へ向かっていく。

そう考えると、この奇妙な眼は恐ろしい怪物ではなく、人間の想像力そのものにも見えてきます。もちろん、これは一つの見方にすぎません。

あなたには、この眼がどこへ向かっているように見えますか?そして、この絵からどんな感情を受け取るでしょうか。同じ作品を見ていても、見えるものや感じることは人によって違います。その違いもまた、アートを見る面白さなのだと思います。

おわりに

 

Odilon Redon
オディロン・ルドン

「眼=気球」を初めて見たとき、「怖い」「気持ち悪い」と感じる人もいるかもしれません。

けれど、少し立ち止まって眺めていると、この奇妙な眼がただ不気味なだけではないことにも気づきます。

ルドンが描こうとしたのは、目の前にある現実だけではありませんでした。夢や想像、心の内側にあるもの。つまり、普段は「見ることのできない世界」です。

巨大な眼が空へ昇っていく「眼=気球」は、そんなルドンの世界を象徴する一枚なのかもしれません。

そして面白いのは、この絵を見て何を感じるかに一つの正解がないことです。

不安なのか。解放なのか。孤独なのか。希望なのか。ぜひ一度、知識から少し離れて作品を眺めてみてください。自分でも気づいていなかった「見方」が、そこに現れるかもしれません。

アート鑑賞は、
対話でもっと面白くなる。

作品についての知識は必要ありません。
「何が見える?」
「なぜそう思った?」
一枚の作品を前に、誰かと話してみる。
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