このシリーズでは1つの作品に
隠された時代背景や解釈、
メッセージ性を読み解いていきます。
第6回目はハンス・ホルバインの
「大使たち」です。
絵画を通して得た知見が
あなたの心のビタミンになれば
幸いです。
大使たちを解説
![Ambassadors](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/487px-Hans_Holbein_the_Younger_-_The_Ambassadors_-_Google_Art_Project-1-300x296.jpg)
題名
大使たち
制作者
ハンス・ホルバイン
制作年
1533年
美術史では
ドイツ・ルネサンス
寸法
207cm×209.5cm
種類
油彩、板
所蔵
ナショナル・ギャラリー
今作は1533年に描かれました。
宗教革命によって宗教画の需要が
減少したことを背景に、
肖像画家として台頭した
ハンス・ホルバインによる作品です。
向かって左にいるのは
フランスから英国に来た
騎士のダントヴィル。
右はその友人でカトリック神父の
ジョルジュ・ド・セルブです。
実はこの2人が英国へ来たのには
ある大きな目的がありました。
ヘンリー8世
![Henry VIII](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/01/627px-Henry-VIII-kingofengland_1491-1547-1-174x300.jpg)
今作は英国王ヘンリー8世が
ホルバインに描かせたものです。
当時ヘンリー8世は王妃キャサリンの
侍女だったアン・ブーリンを気に入り、
離婚してアンとの再婚を企てていました。
しかしカトリックで
離婚は認められていません。
これを原因にヘンリー8世は
ローマ法王と対立していきます。
そしてそんなヘンリー8世を説得すべく、
ふたりの大使が訪れたのでした。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/01/corridor-g14f7f8334_640-1-300x200.jpg)
ところがのちにヘンリー8世は
キャサリンとの結婚無効を宣言、
ローマ法王から破門をされます。
それでも王は、再婚に反対した
側近や司祭を次々に処刑したのでした。
メメント・モリ
![Ambassadors](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/487px-Hans_Holbein_the_Younger_-_The_Ambassadors_-_Google_Art_Project-1-300x296.jpg)
今作にはこのような事態を
予見していたかのような描写が
数多く見受けられます。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/01/731px-Hans_Holbein_the_Younger_-_The_Ambassadors_-_Google_Art_Project-1-300x111.jpg)
まず人物の衣類や装飾品、
テーブル上段の科学道具は
2人が教養を備えていることを
意味しています。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/01/731px-Hans_Holbein_the_Younger_-_The_Ambassadors_-_Google_Art_Project-2-300x212.jpg)
下段の開かれた本は
各国で歌われていた讃美歌の楽譜。
これは2人がキリスト教世界の統一を
望んでいたことを示しています。
しかしその横にあるリュートは
弦が切れており、散々な状態。
これは対話がままならないという
意味が込められています。
脇にあるフルートも1本だけ飛び出ていて
調和が取れていません。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/01/731px-Hans_Holbein_the_Younger_-_The_Ambassadors_-_Google_Art_Project-3.jpg)
また、左上にはチラリと見える
キリストの磔刑像があります。
本来は政治の使者である大使たちが
宗教的な役割を担っていることを
表しています。
![](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2023/01/731px-Hans_Holbein_the_Younger_-_The_Ambassadors_-_Google_Art_Project-4-300x97.jpg)
そしてふたりの足元。
正面からはよくわからないですが、
右上から見ると骸骨だとわかります。
これはアナモルフォーズ(歪曲法)
という手法で描かれただまし絵の1種です。
ホルバインは他の作品でも
メメント・モリという
テーマを表現しており、
今作でも同様のメッセージを
送ろうとしたのかもしれません。
メッセージ性
![Ambassadors](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/487px-Hans_Holbein_the_Younger_-_The_Ambassadors_-_Google_Art_Project-1-300x296.jpg)
ここでもう一度
大使たちを見てみましょう。
ホルバインは描かれた小道具によって
人物の身分や心境を表現することに
長けていた画家でした。
今作でもその手腕が
遺憾なく発揮されています。
あなたには大使たちが
どのように見えますか?
是非、あなたなりのメッセージを
受け取ってください。
まとめ
![Hans Holbein](https://arttayousei.online/wp-content/uploads/2021/02/HolbeindJ.jpg)
✓ヘンリー8世を説得しにきた大使たち
✓破門されてもなお、反対派を処刑した
✓メメント・モリというメッセージが込められている
最後に画家のホルバインについて。
ホルバインとはドイツ語で
空っぽの骨という意味。
そのため骸骨は
「ホルバインのサインでは?」
とする説もあります。
どちらにせよ、
大使たちに描かれた骸骨は
彼の卓越した技術が光っていますね。
最後まで読んで頂き、
ありがとうございました。
→ヘンリー8世を説得
→反対する者を次々に処刑
→死を思えというメッセージ