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イタリア・盛期バロックの代表作や特徴を解説【西洋美術史⑱】

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記事の要約
  1. イタリア・盛期バロックの特徴
    →カトリック教の権威を表現
    →ダイナミックで装飾的
  2. 2つの大きな流れ
    →総合芸術へと向かう流れ
    →古典主義的な流れ
  3. イリュージョニズム
    →建築空間と画中空間を曖昧に
    →天空へと伸びるような表現

 

西洋美術史では1620~1670年頃を
盛期バロック美術と呼んでいます。

この頃のイタリアでは
対抗宗教革命も一段落して、
カトリック教の権威を表現する美術
目立ち始めました。

まずはこの時代の作品の
画像を確認していきましょう。

God's Wisdom Triumph Glory of Saint Ignatius of Loyola Ecstasy of Saint Teresa Allegory of Divine Wisdom

Pietro da Cortona
ピエトロ・ダ・コルトーナ
Andrea Pozzo
アンドレア・ポッツォ
Gian Lorenzo Bernini
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ
Andrea Sacchi
アンドレア・サッキ


美術史年表

初期バロック⇒1590年代~1620年代

・盛期バロック⇒1620~1670年代
スペイン・バロック
フランス・バロック
フランドル/オランダ・バロック



イタリア・盛期バロックの背景

 

Piazza in front of St. Peter's Basilica
サン・ピエトロ大聖堂前広場

教会分裂以後のローマ教皇庁は、
全カトリック世界を統括する権威を掲げ、
それにふさわしい首都ローマの
再整備に着手します。

そして次第にカトリック教の
復権と安定化が行われると、
ローマは壮麗なバロック都市へと
変貌しました。

 

St. Peter's Square

建築と都市空間は一体として捉えられ、
儀礼や祝祭を演出する劇場空間としての
広場や街路が構想され、
演劇性が溢れる永遠の都が生み出されました。

イタリア・盛期バロック美術は
そんなカトリック教の権威を表現し、
豪華絢爛で装飾的な表現が特徴的です。

イタリア・盛期バロックの特徴

 

Piazza Navona
ナヴォーナ広場(彫刻はベルニーニが制作)

1630年以降の盛期バロック美術は
2つの大きな流れがあります。

1つは、

絵画・彫刻、建築の融合へと向かう
ダイナミックな様式を示す流れ。
総合芸術とも呼ばれています。

この路線の代表として、

  • ピエトロ・ダ・コルトーナ
  • アンドレア・ボッツォ
  • ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ

などがいます。

2つ目に、

古典主義的様式へと向かう流れです。

この路線の代表として、

  • ニコラ・プッサン(フランス)
  • アンドレア・サッキ

などがいます。

順に解説していきます。

ピエトロ・ダ・コルトーナ

 

God's Wisdom Triumph
「神の知の勝利」1633‐1639?

ローマのバルベリーニ宮殿には
コルトーナの壮大な天井装飾があります。

漆喰装飾でできた四隅の柱とその上の
4辺によって5区画に分けられた今作は、
建築的境界を曖昧にする効果があります。

 

Quadratura
従来のクワドラトゥーラ

従来のクワドラトゥーラでは
限定された空間を広げようとする
錯覚効果を探求していました。

しかしそこには鑑賞者の空間と画中空間を
連続させるという課題が残っていました。

 

God's Wisdom Triumph
神の知の勝利(別視点)

盛期バロックでは今作のような
漆喰装飾とフレスコ画が一体となった、
よい高度なイリュージョンが確立しました。

 

Pietro da Cortona
ピエトロ・ダ・コルトーナ
ピエトロ・ダ・コルトーナ
  • 生きた年代
    →1596~1669年
  • 代表作
    →神の知の勝利など
  • なにをした人?
    →盛期バロックを代表する画家で、バルベリーニ宮殿の天井装飾をしたことで有名

アンドレア・ボッツォ

 

Glory of Saint Ignatius of Loyola
「聖イグナティウス・デ・ロヨラの栄光」1691‐94年

コルトーナが描いたような天井画は、
その後更に盛り上がりを見せていきます。

↑はアンドレア・ボッツォが手掛けた
「聖イグナティウス・デ・ロヨラの栄光」
という作品で、ローマにある
サンティニャーツィオ聖堂の天井装飾です。

 

引用:美術覚書

作中端の円蓋部分は角度によって、
あたかも聖堂空間と連続している
かのように見えます。

このようなバロック建築特有の、
描かれた対象が建築物の境界を越えて
はるか上空へ続くような視覚的効果を
イリュージョニズムと呼んだりします。

 

Andrea Pozzo
アンドレア・ポッツォ
アンドレア・ポッツォ
  • 生きた年代
    →1642~1709年
  • 代表作
    →聖イグナティウス・デ・ロヨラの栄光など
  • なにをした人?
    →コルトーナ同様、壮大な天井装飾で有名な画家、建築家

ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ

 

Ecstasy of Saint Teresa
「聖女テレサの法悦」1647‐1652年

バロック彫刻の立役者となった
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニは、
彫刻と建築を融合させ、
演劇的で神秘的な空間を作った芸術家です。

「聖女テレサの法悦」は、
スペイン出身の16世紀の修道女、
聖女テレサの前に天使が現れて
矢で心臓を貫くという幻視体験が
造形されています。

 

Ecstasy of Saint Teresa

この聖女テレサの法悦は、
当時カトリック教が特に力を入れた
テーマの1つでもあります。

カトリックとプロテスタントの美術を解説

 

Gian Lorenzo Bernini
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ
ベルニーニ
  • 生きた年代
    →1598~1680年
  • 代表作
    →聖女テレサの法悦など
  • なにをした人?
    →バロック時代を代表する彫刻家、建築家。サン・ピエトロ広場など、ローマにある多くの彫刻や建築に携わった巨匠

アンドレア・サッキ

 

Allegory of Divine Wisdom
「神の知恵の寓意」1629‐31年

アンドレア・サッキ
コルトーナと同時期の画家であり、
彼と競い合った人物です。

サッキの作品はコルトーナのような
イリュージョンに富んだものではなく、
古典主義的なものです。

↑の作品もコルトーナの天井画同様、
バルベリーニ宮殿に描かれています。

 

Andrea Sacchi
アンドレア・サッキ
アンドレア・サッキ
  • 生きた年代
    →1599~1661年
  • 代表作
    →神の知恵の寓意など
  • なにをした人?
    →ピエトロ・ダ・コルトーナと同時代の画家で、イリュージョンを抑えた古典主義的作品でコルトーナと競い合った

まとめ

 

God's Wisdom Triumph
まとめ

✓イタリアの盛期バロックでは
カトリック教の権威を示す
ダイナミックな作品が制作された

✓建築空間と画中空間を曖昧にした、
イリュージョニズムが確立した

✓ベルニーニは彫刻と建築を融合させ、
神秘的な空間を作った巨匠

次回はスペイン・バロックを解説します。

 

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