美的発達段階とは?

 

記事の要約
  1. 美的発達段階とは
    →1983年にハウゼンが提唱
    →5段階の発達段階
    →8割以上の人がstageⅠかⅡ
  2. stageⅣ以上は
    →作品と対話ができる
    →主観と客観を行き来できる
    →深い鑑賞

 

美術鑑賞における発達段階として
美的発達段階というものがあります。

簡潔に言えば美術鑑賞をする側のレベル
のようなものですが、
さまざまな示唆に富んでいるものです。

そこでこの記事では、
美的発達段階について解説していきます。


美的発達段階とは

 

1983年に認知心理学者である
アビゲイル・ハウゼンは、
美術鑑賞における発達段階としての
美的発達段階を提唱しました。

1996年にはマイケル・パーソンズが
美的経験の段階性を提唱しています。

それぞれ以下のようになっています。

ハウゼンの分類
  • stageⅠ【物語の段階】
    鑑賞者は物語の語り手となり、自分の感覚を使って物語を創造する
  • stageⅡ【構成の段階】
    鑑賞者は自身の知覚、道徳的価値観、世界観で枠組みをつくり、作品を鑑賞する
  • stageⅢ【分類の段階】
    美術史的な文脈で、作品の背景などを明らかにしながら鑑賞する
  • stageⅣ【解釈の段階】
    線や形、色などを注意深く見て作品の意味するところを探る。知識は作品の再解釈のために使われる
  • stageⅤ【再創造の段階】
    作品の背景や複雑さなどを理解したうえで個人的な熟考と作品の背景を結びつけ、作品と何度でも出会いなおすことができる
パーソンズの分類
  • stageⅠ【偏愛主義】
    表面的な感想を抱く段階。好きな絵=良い絵であり、色彩に注目する特徴がある
  • stageⅡ【美と写実主義】
    良い絵=描写力のある絵であり、描写技術の良し悪しで判断する
  • stageⅢ【表現性】
    主観的にアーティストの思考や感情に注目できるようになる
  • stageⅣ【様式と形状】
    形式、スタイル、歴史的な意義を知り作品を理解できるようになる。客観的な判断ができるようになる
  • stageⅤ【自律性】
    作品の背景や歴史的背景・一般的な作品評価を踏まえた上で、独自の考え方を示すことができるようになる

またパーソンズは、
美術館に来館している約8割が
stageのⅠかⅡであるとも述べています。

ここからはハウゼンの
美的発達段階をもう少し詳しく
解説していきたいと思います。

stageⅠ【物語の段階】

 

この段階にいる人は作品を見て、
自分自身の物語を作ります。

 

例えば以下の作品を例にすると↓

Christinasworld
stageⅠ
この人脚をケガしたのかな?脚ケガすると痛いんだよねー。這いつくばって移動するのも大変だよね。腕とか筋肉痛になりそう・・・

このようにstageⅠの鑑賞者は
作品を見て物語をつくりますが、
自分の記憶や経験へと話が逸れて、
鑑賞からどんどん離れていくのが特徴です。

stageⅡ【構成の段階】

 

この段階にいる人は作品を見て、
アートの質を考え始めます。

自分の中にあるアートの定義や
人生の価値観に対する定義があるので、
それに当てはまらないと不安や反感、
怒りや抵抗を見せることもあります。

 

例えば↓

Christinasworld
stageⅡ
リアルで凄いなぁ。やっぱリアルに描けてる絵が好きだなぁ

 

一方で別の作品を鑑賞すると、

Dulcamara Island
stageⅡ
なにを描いてるのか全然わからない。こういうの苦手だなぁ…

このようにstageⅡの鑑賞者は
自身が定義する枠組みの外にある
作品に対しては消極的であったり、
否定的になるのが特徴です。

stageⅢ【分類の段階】

 

この段階にいる人は作品を
理論と理性で見ようとします。

 

Christinasworld
stageⅢ
えーとこの作品は1948年にアンドリュー・ワイエスが描いた「クリスティーナの世界」か。20世紀中期の最も有名なアメリカ絵画の1つで…

このようにstageⅢの鑑賞者は
主観的な発言は避けて、
作品についてのデータを求めている
段階といえます。

美術館に行った際、
作品よりも説明文キャプションばかり
見ているような感じです。

stageⅣ【解釈の段階】

 

この段階にいる人は
自分の主観、感性、知識を駆使して
作品を鑑賞することができます。

作品について探求し、
その意味をゆっくり解き明かそうとし、
作品の線や形、色や繊細さを高く評価します。

 

Christinasworld
stageⅣ
進行性の病にある女性の姿に触発されたワイエスが描いた絵だ。女性の胴体の部分はワイエスの妻がモデルみたいだけど、なぜそこだけ奥さんをモデルにしたんだろう。でも、人物を後ろから描くこの構図は女性の強さを感じるな…。これもある種の背中で語るってやつだろうか。

このようにstageⅣの鑑賞者は
作品に関する知識もありながら
目の前の作品にとどまらず、
その他の作品やメタファーなどにも
考えが及ぶのが特徴です。

stageⅢの鑑賞者と違って、
作品に関する知識はあくまで
自身の解釈の参考程度になります。

stageⅤ【再創造の段階】

 

この段階にいる人は作品について考え、
わからないことに喜びをもって解き明かし、
感情や直感、批判的スキルを用いて
作品の根本的な意味を見出します。

鑑賞から自分の人生や経験、感情など
美術以外の世界にも自由に行き来できる。
まるで幼馴染と遊ぶように作品と遊べる人です。

 

Christinasworld
stageⅤ
ワイエスの制作意欲を搔き立てたこの女性はどんな人なのだろうか。歩けないほどの体だけど、わざわざロングのワンピースを着ているってことは美意識が高い人なのかな。もしくはとても気丈な人なのかな。自分だったら歩けないという状況は絶望的にも感じるけど、この作品からは不思議とそんな感じがしないのはなぜだろう…

このようにstageⅤの鑑賞者は
わからないことを楽しむことができて、
見慣れた絵画でも親しみのある旧友のように
何度も味わうことができるのが特徴です。

作品の歴史や一般的な見解を引いてきて、
個人的な見解と普遍的な見解を
複雑に組み合わせることができる。

ちなみにこの段階の人は
来館者の中に0.1%しかいないそうです。

美的発達段階の補足

 

ハウゼンは美的発達段階が
順序に沿って発達していく理論であり、
stageⅠの人が急にⅢやⅣには
ならないと述べています。

また年齢により自然に発達するのではなく、
美術鑑賞経験が重要であることも
明らかになっています。

段階の共通点

 

ハウゼンやパーソンズが提唱した
発達段階にはいくつか共通点があります。

それは、
stageⅠもしくはⅡの人は
作品の表面的な部分についての
個人的な感想を述べるという点。

続いてstageⅢの人は
作家や作品についての情報を踏まえて
作品を理解できるという点。

最後にstageⅣ以上の人は
自身の知識や感性、感覚を用いて
作品と対話ができるという点。

また最上位の項目がハウゼンでは再創造、
パーソンズで自律性なのも重要な点です。

それは美術鑑賞というものが
ある目的に達成して終わるものではなく、
作品の解釈を無限に生み続けるプロセスであり
それ自体が創造的なことだからです。

対話型鑑賞の基盤

 

今回の美的発達段階は
対話型鑑賞の基盤ともなっています。

それは対話型鑑賞が
stageⅠ、Ⅱの人を対象にしていて、
作品の情報を提示せずに
思ったことを自由に話す
というルールにも関係しています。

またファシリテーターによる
「作品の中でなにが起こっている?」
「そこからどう思う?」
という問いかけはstageⅠの鑑賞者に
物語はどこを見て始まったのか、
その根拠はどこにあるのかということを
考えさせるキッカケともなります。

美術鑑賞、しいては物事に対する
考え方や解釈の幅を広げたい人は
是非対話型鑑賞を体験してみて下さい。

 

thumbnail

まとめ

 

まとめ

✓美的発達段階は順序に沿って
発達していく理論であり、
stageⅠの人が急にⅢやⅣにはならない

✓stageⅠもしくはⅡの人は
作品の表面的な部分についての
個人的な感想を述べるのが特徴

✓stageⅣ以上の人は
自身の知識や感性、感覚を用いて
作品と対話ができる

最後にこの美的発達段階は
各段階同等の重要性を持っています。

つまりstageⅠの人が劣っているわけでも
stageⅤの人が偉いわけでもありません。

アートに触れる経験の長さが関係するので、
経験値が豊富な人ほど
深い鑑賞が出来ているというものです。

そして深い鑑賞は美術以外の
さまざま事柄に対する考えや解釈にも
影響していることでしょう。

最後まで読んで頂き、
ありがとうございました。