美的発達段階とは?5つの段階から「絵の見方」を考える

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理学療法士・対話型鑑賞ファシリテーター。 在宅医療に携わりながら、アートを通した自己理解と人間理解を発信しています。

 

同じ絵を見ているのに、人によって見ているものがまったく違う。

美術館に誰かと行ったことがある人なら、そんな経験があるかもしれません。

ある人は描かれている人物から物語を想像する。ある人は「この画家は誰だろう」と作品の背景を調べる。また別の人は、自分自身の経験と作品を重ねながら考える。

では、こうした「絵の見方」の違いはどこから生まれるのでしょうか。

そのひとつの考え方として、認知心理学者・教育研究者のアビゲイル・ハウゼンが研究した「美的発達段階(Stages of Aesthetic Development)」があります。

この記事では、美的発達段階とは何なのか。5つの段階を実際の作品を例にしながら解説していきます。


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美的発達段階とは

 

美的発達段階とは、簡単にいえば「人が美術作品をどのように見て、どのように意味をつくるのか」を発達的に捉えた理論です。

ハウゼンは1970年代半ばから、人々が美術作品をどのように鑑賞するのかを研究していました。

その方法が「美的発達インタビュー(Aesthetic Development Interview)」です。

鑑賞者に作品を見てもらい、考えたことや感じたことを自由に話してもらう。その言葉を記録し、分析することで、作品を見るときの思考の特徴を調べていきました。

そして長年の研究から、作品の見方には一定のパターンがあることを見いだします。

それを5つに整理したものが「美的発達段階」です。

ここで大切なのは、単純な美術鑑賞能力ランキングではないということです。

それぞれの段階では、作品を見るときに何に注目し、どのように意味をつくるのかが異なります。

また年齢を重ねれば自然に段階が進むわけでもありません。美術作品を見る経験の積み重ねが、美的発達には重要だと考えられています。

 

ハウゼンの分類
  • stageⅠ【物語の段階】
    作品の中に物語を見つけ、自分自身の経験や記憶、感覚などと結びつけながら鑑賞します。「この人は悲しんでいるのかもしれない」「これからどこかへ出かけるところなのかな」といったように、作品の中から物語をつくり出していきます。
  • stageⅡ【構成の段階】
    自分の経験だけでなく、現実世界についての知識や社会的・道徳的な価値観などを使って作品を判断します。「本物のように描けている」「これは現実にはあり得ない」といった見方も、この段階の特徴として挙げられます。
  • stageⅢ【分類の段階】
    作品を美術史的な文脈の中で捉えるようになります。作家、時代、様式、技法などの情報を使い、「これは○○時代の作品だから……」と作品を分析・分類しながら鑑賞します。
  • stageⅣ【解釈の段階】
    線や形、色など作品そのものを注意深く観察しながら、自分自身の感覚や直観、これまでに得た知識などを組み合わせて作品の意味を考えていきます。知識も単なる分類のためではなく、作品を新しく解釈するために使われるようになります。
  • stageⅤ【再創造の段階】
    長年にわたって作品を見る経験を重ねた鑑賞者にみられる段階です。作品の歴史や背景について理解しながら、それと個人的な経験や熟考を結びつけます。同じ作品であっても、何度も出会い直し、そのたびに新しい意味を見いだしていきます。

 

ここからはハウゼンの美的発達段階をもう少し詳しく解説していきたいと思います。

stageⅠ【物語の段階】

 

この段階にいる人は作品を見て、
自分自身の物語を作ります。

 

例えば以下の作品を例にすると↓

Christinasworld
stageⅠ
この人脚をケガしたのかな?脚ケガすると痛いんだよねー。這いつくばって移動するのも大変だよね。腕とか筋肉痛になりそう・・・

このようにstageⅠの鑑賞者は
作品を見て物語をつくりますが、
自分の記憶や経験へと話が逸れて、
鑑賞からどんどん離れていくのが特徴です。

stageⅡ【構成の段階】

 

この段階にいる人は作品を見て、
アートの質を考え始めます。

自分の中にあるアートの定義や
人生の価値観に対する定義があるので、
それに当てはまらないと不安や反感、
怒りや抵抗を見せることもあります。

 

例えば↓

Christinasworld
stageⅡ
リアルで凄いなぁ。やっぱリアルに描けてる絵が好きだなぁ

 

一方で別の作品を鑑賞すると、

Dulcamara Island
stageⅡ
なにを描いてるのか全然わからない。こういうの苦手だなぁ…

このようにstageⅡの鑑賞者は
自身が定義する枠組みの外にある
作品に対しては消極的であったり、
否定的になるのが特徴です。

stageⅢ【分類の段階】

 

この段階にいる人は作品を
理論と理性で見ようとします。

 

Christinasworld
stageⅢ
えーとこの作品は1948年にアンドリュー・ワイエスが描いた「クリスティーナの世界」か。20世紀中期の最も有名なアメリカ絵画の1つで…

このようにstageⅢの鑑賞者は
主観的な発言は避けて、
作品についてのデータを求めている
段階といえます。

美術館に行った際、
作品よりも説明文キャプションを
見ているような感じです。

作品に関するデータがあれば、
作品のもつ意味やメッセージは
合理的に説明が可能だと信じています。

stageⅣ【解釈の段階】

 

この段階にいる人は
自分の主観、感性、知識を駆使して
作品を鑑賞することができます。

作品について探求し、
その意味をゆっくり解き明かそうとし、
作品の線や形、色や繊細さを高く評価します。

 

Christinasworld
stageⅣ
進行性の病にある女性の姿に触発されたワイエスが描いた絵だ。女性の胴体の部分はワイエスの妻がモデルみたいだけど、なぜそこだけ奥さんをモデルにしたんだろう。でも、人物を後ろから描くこの構図は女性の強さを感じるな…。これもある種の背中で語るってやつだろうか。

このようにstageⅣの鑑賞者は
作品に関する知識もありながら
目の前の作品にとどまらず、
その他の作品やメタファーなどにも
考えが及ぶのが特徴です。

stageⅢの鑑賞者と違って、
作品に関する知識はあくまで
自身の解釈の参考程度になります。

また、作品のもつ意味や価値は
解釈する人や時が違えば変わることを
理解しているのも特徴です。

stageⅤ【再創造の段階】

 

この段階にいる人は作品について考え、
わからないことに喜びをもって解き明かし、
感情や直感、批判的スキルを用いて
作品の根本的な意味を見出します。

鑑賞から自分の人生や経験、感情など
美術以外の世界にも自由に行き来できる。
まるで幼馴染と遊ぶように作品と遊べる人です。

 

Christinasworld
stageⅤ
ワイエスの制作意欲を搔き立てたこの女性はどんな人なのだろうか。歩けないほどの体だけど、わざわざロングのワンピースを着ているってことは美意識が高い人なのかな。もしくはとても気丈な人なのかな。自分だったら歩けないという状況は絶望的にも感じるけど、この作品からは不思議とそんな感じがしないのはなぜだろう…

このようにstageⅤの鑑賞者は
わからないことを楽しむことができて、
見慣れた絵画でも親しみのある旧友のように
何度も味わうことができるのが特徴です。

作品の歴史や一般的な見解を引いてきて、
個人的な見解と普遍的な見解を
複雑に組み合わせることができます。

長い人生経験も必要とされ、
この段階にいる人は
来館者の中に0.1%しかいないそうです。

美的発達段階は「階級」ではない

 

Stage IからStage Vまでを見るとどうしても、「Stage Vの人の方がすごい」と思ってしまうかもしれません。しかし、この理論を単純な優劣として捉えるのは少し違います。

そもそも美的発達は、年齢だけで決まるものではありません。大人だからStageが高く、子どもだから低いというものでもない。

作品を見る経験がほとんどなければ、大人でもStage Iから始まります。また実際には「Stage IかStage IIか」ときれいに分かれるわけではなく、両方の特徴を持った移行段階も存在します。

そして、それぞれの段階に作品を見るための異なる方法があります。

物語をつくる。現実との関係から考える。知識を使って分類する。自分なりに解釈する。何度も作品と出会い直す。

美的発達段階の面白さは、人をランク付けできることではなく、「人はこんなにも違う方法で同じ作品を見ている」と示してくれるところにあるのだと思います。

美的発達段階と対話型鑑賞

 

この美的発達研究は、対話型鑑賞(VTS)の理論的な基盤になっています。

VTSでは、特に美術鑑賞の経験がまだ多くない鑑賞者が、自分自身で作品を見て考えることを大切にします。

そこでファシリテーターは、「この作品の中で何が起こっていますか?」「どこからそう思いましたか?」「もっと発見はありますか?」と問いかけます。

たとえばStage Iでは、作品からさまざまな物語が生まれます。そこで、「どこからそう思った?」と問いかける。すると鑑賞者は、自分がつくった物語からもう一度作品へ視線を戻し、「この人物が下を向いているから」「ここだけ色が暗いから」と、その考えの根拠を探し始めます。

つまり、自由な想像を否定するのではなく、想像と作品そのものを行き来するように促していくわけです。

さらに他者の意見を聞けば、自分とはまったく違う場所を見ていることにも気づきます。見る。考える。言葉にする。誰かの考えを聞く。そして、もう一度見る。

こうした経験の積み重ねが、美的な思考の発達につながっていくと考えられています。

美術鑑賞に「ゴール」はあるのか

 

美的発達段階を知って面白いと思うのは、最終段階が「正しい理解」ではないことです。

Stage Vは、作品についてのすべてを知り、完全に理解してしまう段階ではありません。むしろその反対です。

長く作品を見てきたからこそ、「まだわからない」という状態を受け入れられる。そして、以前とは違う自分で、同じ作品にもう一度出会うことができる。

美術鑑賞というと、作品の作者や制作年、時代背景を知り、「作品を理解すること」がゴールのように感じることがあります。でも、本当にそうなのでしょうか。

10年前に見た作品と、今日見る作品。同じ絵なのに、違って見えることがあります。変わったのは作品ではありません。見ている自分の方です。

そう考えると、美術鑑賞には「理解して終わる」という明確なゴールがないのかもしれません。作品を見ることは、そのときの自分自身で作品と出会い直すことでもある。

美的発達段階は、そんな美術鑑賞の面白さについて考えさせてくれる理論でもあります。

まとめ

 

美的発達段階は、アビゲイル・ハウゼンが長年の研究から導き出した「人が美術作品をどのように見て、意味をつくるのか」を捉えるための理論です。

Stage I「物語」、Stage II「構成」、Stage III「分類」、Stage IV「解釈」、Stage V「再創造」という5つの段階があり、作品を見る経験を積み重ねることで、その見方は変化していくと考えられています。

ただし、大切なのは「自分はStageいくつだろう?」と人を格付けすることではありません。

同じ作品を前にしても、人によって見えているものは違う。

そして、自分自身の見方も変わっていく。

そのことを知るだけでも、美術館で作品を見る時間は少し面白くなるのではないでしょうか。

 

アート鑑賞は、
対話でもっと面白くなる。

作品についての知識は必要ありません。
「何が見える?」
「なぜそう思った?」
一枚の作品を前に、誰かと話してみる。
すると、自分だけでは気づかなかったものが、
見えてくることがあります。
絵.cocoroでは、そんな
「対話しながら作品を見る」体験を
紹介しています。