ネーデルラントやフランス、
ドイツ語圏の国々で起こった
15~16世紀の芸術運動を
北方ルネサンスと呼んでいます。
ルネサンスと名前がついていますが、
イタリアのそれとは全く異なります。
まずはこの時代の作品の
画像を確認していきましょう。
目次
北方ルネサンスとは?
イタリアのルネサンスは
古代文化の復興を意味しましたが、
北方での復興的活動は
あまりありませんでした。
そこでルネサンスという言葉では
一括りにできないと判断されたことで、
北方ルネサンスという別の表現を
使うようになりました。
ネーデルラントでは15世紀初頭から
油絵技法が確立します。
それまでの主流はテンペラという
顔料に卵を混ぜて描くものでした。
一方の油絵は
- 透明性が高い
- 光沢がある
- 遅乾性でテンペラより精緻な描写が可能
といった特徴があり、
後にイタリアにも伝わりました。
そしてその油絵を
最初の頃に使いこなしたのが、
初期ネーデルラント派の画家である
ロベルト・カンピンです。
遠近の感覚はまだ未熟ですが、
人物の量感や個別性のある容姿、
立体的なドレイパリーはとても写実的です。
自然を正確に模倣しようとするこだわりは、
ネーデルラント絵画の基盤ともいえます。
- 生きた年代
→1375~1444年 - 代表作
→メロードの祭壇画など - なにをした人?
→初期ネーデルラント派の偉大な画家とされる。新技術の油絵を使いこなした最初の1人
北方ルネサンスの特徴
北方ルネサンスの大まかな特徴は
以下のようになります。
- 写実的
- 油彩画による細密描写
- 宗教的な主題をより身近に
⇒世界風景(後述)
また絵画のジャンルに関して、
宗教画や肖像画が多く描かれましたが、
物語性のある絵や神話画は
ほとんど描かれませんでした。
ここからは代表的な画家や作品を
解説していきます。
ロヒール・ファン・デル・ウェイデン
ロヒール・ファン・デル・ウェイデンは
カンピンの弟子にあたる画家です。
師の造形性を引き継ぎつつ、
優美な雰囲気の肖像画を描きました。
宗教画も多く手掛けており、
↑の作品は北ヨーロッパで
最も人気で画家の評価を
不動のものにした作品です。
- 生きた年代
→1400~1464年 - 代表作
→十字架降架など - なにをした人?
→カンピンの弟子で、初期ネーデルラント派の巨匠の1人
ヤン・ファン・エイク
ヤン・ファン・エイクは
油絵技法を進展、刷新させた
人物として有名です。
北方絵画の特徴である
写実的かつ細密な描写が
存分に発揮されています。
↑はもう1つの代表作である
「ヘントの祭壇画」。
兄であるフーベルト・ファン・エイクが
制作途中で亡くなったため、
兄を引き継いで制作したとされる今作は
「北ヨーロッパ写実主義の最終到達点」とまで
言われています。
- 生きた年代
→1395~1441年 - 代表作
→アルノルフィーニ夫妻像
→ヘントの祭壇画など - なにをした人?
→油絵技法を進展させた画家。初期ネーデルラント派の巨匠の1人 - その他の記事
→アルノルフィーニ夫妻像を解説
ヒエロニムス・ボス
宗教的な主題に幻想的で謎めいた表現を
組み合わせた作品を作ったのが
ヒエロニムス・ボスです。
↑は代表作の「快楽の園」で、
左からエデンの園、快楽の園、地獄が
描かれた三連祭壇画です。
この作品には謎めいた行為や
動植物が多数描かれていますが、
現在でもそれらの意味のほとんどが不明です。
ちなみにボスは
レオナルド・ダ・ヴィンチと
同時代の画家です。
- 生きた年代
→1450~1516年 - 代表作
→快楽の園など - なにをした人?
→宗教的な主題に謎めいた表現を使った画家 - その他の記事
→「快楽の園」ってなんなの?
16世紀のネーデルラント絵画
16世紀に入ると
ネーデルラント芸術は多様化します。
↑はピーテル・アールツェンの
「マルタとマリアの家のキリスト」という
作品です。
手前に大きく肉やパンが描かれているので、
一見すると静物画のような印象を受けます。
ところが左にキリストの物語が描かれており、
宗教的な作品だとわかります。
↑もアールツェンの作品。
作品奥の方に貧しい人に食べ物を
分け与える聖人が描かれています。
このように、
それまで中心に描かれるはずだった
宗教的なものをあえて脇にやることで、
宗教的なテーマをより身近なものへ
変える試みがされました。
ヨアヒム・パティニール
ベルギーのヨアヒム・パティニールは、
世界風景と呼ばれる作品を
描いたことで有名です。
世界風景とは空から見下ろしたように
広大な風景を描いた絵のことです。
パティニールはその中に
宗教的なものを描くことで
より身近なものに感じさせました。
アールツェンの静物画と同じような
効果を狙った作品です。
↑はパティニールの別の作品。
ギリシャ神話が題材です。
今作でもパノラマ的風景が際立っています。
当時のネーデルラントでは
地図制作が盛んに行われており、
そのことが世界風景の誕生に影響した
可能性が示唆されています。
- 生きた年代
→1480~1524年 - 代表作
→エジプトへの逃避など - なにをした人?
→世界風景と呼ばれるパノラマ的な風景の絵を描いた。北方風景絵画の先駆者ともいわれている
ピーテル・ブリューゲル
16世紀後半にはピーテル・ブリューゲルが
風景画と風俗画を掛け合わせた絵画を
生み出しました。
彼は若くしてローマやボローニャで
学びましたが、イタリアのルネサンス的
要素はあまり感じられません。
むしろパティニールの世界風景の
ような要素を感じさせます。
ブリューゲルは他にも、
農村の風俗画なども手掛けており、
風刺の効いたユーモラスな作品は
ボスの影響を受けていると考えられています。
- 生きた年代
→1525~1569年 - 代表作
→バベルの塔など - なにをした人?
→風景画と風俗画を掛け合わせた絵画を生み出した
まとめ
✓ネーデルラントでは15世紀初頭から
油絵技法が確立した
✓16世紀から宗教的なものを
あえて脇に描くような作品が制作された
✓空から見下ろしたように広大な風景を
描いた絵を世界風景という
次回はドイツのルネサンスを解説します。
→復興的活動はない
→油絵など独自な進展があった
→北方絵画の特徴
→ファン・エイクに代表される
→パノラマ的風景のこと