バロック時代のスペインは
イタリアのバロック様式を踏襲しつつ、
甘美な宗教画や宮廷美術が
発展したことが特徴的です。
まずはこの時代の作品の
画像を確認していきましょう。
・初期バロック⇒1590年代~1620年代
⇩
・盛期バロック⇒1620~1670年代
・スペイン・バロック
・フランス・バロック
・フランドル/オランダ・バロック
目次
スペイン・バロックの背景
16世紀後半のスペインは事実上、
イタリアを支配する強国でした。
いち早く海外進出を遂げたスペインは
太陽の沈まぬ帝国としてヨーロッパの
政治と経済の中枢を占めていました。
また、ハプスブルク家に統合されて
厳格なカトリックの国でもあったスペインは
対抗宗教革命を推進しました。
よってこの時代のスペイン美術は、
- 対抗宗教革命に合致した宗教画
- ハプスブルク家に代表される宮廷美術
の2つの方面で発展を遂げていきます。
また、スペイン美術に貢献した人物として
エル・グレコが有名です。
ギリシャ出身のグレコは
イタリアに10年ほど滞在し、
ヴェネツィア派やミケランジェロ、
マニエリスムの作品から多くを学びます。
その後スペインに渡ったグレコは
カトリックの総本山であるトレドで
宗教関係者や知識人の支持を得て、
神秘的な宗教画を多数手掛けました。
このことは、
ルネサンスの影響をあまり受けず、
美術発展に乏しかったスペインに
大きな発展をもたらしました。
- 生きた年代
→1541~1614年 - 代表作
→受胎告知
→ラオコーンなど - なにをした人?
→イタリア美術を学んだ後にスペインに渡り、スペインの美術発展に貢献した画家。
スペイン・バロックの特徴
スペイン・バロックの
大きな特徴は以下の通りです↓
- 明暗の強い宗教画
→カラヴァッジョの影響 - セビーリャ派の宗教画
- ヴァニタス画
- 宮廷美術
→王の画家ベラスケス
スペインでは17世紀に入ると
バレンシア、セビーリャなど
文化の違う諸都市で美術が展開され、
各々の地で活躍した画家を
バレンシア派やセビーリャ派と呼んでいます。
ではここから、
代表的な作品や画家を解説していきます。
フランシスコ・リバルタ
スペイン・バロックの出発点は
カラヴァッジョが完成させた明暗法です。
フランシスコ・リバルタは
そんな明暗法をスペインで確立した
最初期の1人です。
イタリアでのバロック様式を
スペインで広めた人物ともいえます。
- 生きた年代
→1565~1628年 - 代表作
→聖ベルナルドゥスを抱擁するキリストなど - なにをした人?
→カラヴァッジョの明暗法をスペインで確立、広めた画家
フランシスコ・デ・スルバラン
フランシスコ・デ・スルバランは
修道士の像の画家として名をあげ、
多くの聖人や修道士の肖像画を
手掛けた画家です。
カラヴァッジョのような
明暗法からなる作品が多く、
スペインのカラヴァッジョとも
呼ばれることもありますが、
構図としては厳格で静的なのが特徴です。
- 生きた年代
→1598~1664年 - 代表作
→ひざまずいて祈る聖フランチェスコなど - なにをした人?
→スペインのカラヴァッジョとも呼ばれるスペイン・バロック期の画家。優れた宗教画や静物画を手掛けた
バルトロメ・エステバン・ムリーリョ
スルバランの次世代、17世紀半ば頃から
セビーリャで活躍したのが
バルトロメ・エステバン・ムリーリョです。
ムリーリョもカラヴァッジョのような
明暗法が目立つ作品から出発しますが、
徐々に親しみやすく甘美な宗教画を
多く手掛けるようになります。
またムリーリョの大きな功績は、
マリア信仰の強かったスペインで
↑のような「無原罪の御宿り」の
図像を完成させたことです。
その背景にはスペイン経済の衰退や
ペストなどの感染症があり、
悲惨な社会状況の中で民衆が求めたのは、
厳格で教義に忠実な宗教画ではなく、
癒しを与えてくれる慈愛の表現でした。
一方ムリーリョの作品が支持を得だすと
スルバランのような厳格な宗教画は
時代遅れのようになり、
徐々に衰退していきました。
- 生きた年代
→1617~1682年 - 代表作
→無原罪の御宿りなど - なにをした人?
→17世紀スペイン黄金時代を代表するセビーリャ派の画家。
ファン・デ・バルデス・レアル
セビーリャには貧しい病人たちが
介護される聖堂がありました。
そこには
ファン・デ・バルデス・レアルの
ヴァニタス画あります。
ヴァニタス画とは現世の富や名誉の
はかなさを示した絵のことで、
レアルの作品は徹底した
リアリズムで描かれています。
こうした作品には病に苦しむ人々を
慰め、励ます役割がありました。
- 生きた年代
→1622~1690年 - 代表作
→世の栄光の終りなど - なにをした人?
→セビーリャ派の画家でヴァニタス画が有名。
ディエゴ・ベラスケス
首都マドリードでは宮廷美術が発展し、
セビーリャ出身のディエゴ・ベラスケスが
宮廷画家として活躍しました。
イタリアに滞在経験のあるベラスケスは、
古典的な構想や空気遠近法、色彩などを学び
帰国後にマドリードで40年間宮廷画家として
さまざまなジャンルの作品を残しました。
↑は代表作のラス・メニーナス。
王女や女官たちが描かれており、
宮廷の人々が鑑賞者の方を
見ているかのような感覚に陥ります。
↑はカトリックの伝統が強い
スペインでは珍しい女神の裸婦像。
その背景には、
宮廷絵画には宗教的規約が及ばない
という特徴があります。
- 生きた年代
→1599年~1660年 - 代表作
→ラス・メニーナスなど - なにをした人?
→首都マドリードの宮廷画家として活躍した17世紀を代表する巨匠 - その他の記事
→ラス・メニーナスを解説
まとめ
✓ギリシャ出身のエル・グレコが
スペイン美術の発展に貢献した
✓スペイン・バロックの出発点は
カラヴァッジョの明暗法
✓17世紀半ば頃からムリーリョのような
親しみやすく甘美な宗教画が支持を得た
✓マドリードでは宮廷美術が発展し、
ベラスケスは17世紀を代表する巨匠となった
次回はフランス・バロックを解説します。
→エル・グレコ
→対抗宗教革命に合致する宗教画
→宮廷美術
→親しみやすく甘美な宗教画
→ムリーリョが活躍