シテール島の巡礼を解説

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理学療法士・対話型鑑賞ファシリテーター。 在宅医療に携わりながら、アートを通した自己理解と人間理解を発信しています。

 

記事の要約
  1. シテール島
    →ヴィーナスが流れ着いた島
    →聖地巡礼
  2. 雅宴画
    →当世風の衣装で着飾った
    男女の集いをテーマにしたもの
  3. アントワーヌ=ヴァトー
    →内向的
    →36歳の若さで亡くなる

 

このシリーズでは1つの作品に隠された時代背景や解釈、メッセージ性を読み解いていきます。第11回目はアントワーヌ=ヴァトーの「シテール島への巡礼」です。

絵画を通して得た知見があなたの心のビタミンになれば幸いです。


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シテール島への巡礼を解説

 

Pilgrimage to the island of Cythera
作品概要

題名
シテール島の巡礼
制作者
アントワーヌ=ヴァトー
制作年
1717年
美術史では
ロココ美術
寸法
129cm×194cm
種類
油彩
所蔵
ルーヴル美術館

今作はロココ美術を代表する画家、アントワーヌ・ヴァトーによって描かれました。

シテール島はギリシャ神話において、愛と美の女神アフロディーテ(ヴィーナス)と深く結びついた島です。そのためシテール島は、「愛の島」として多くの芸術家たちの想像力を刺激してきました。

描かれているのは、シテール島に集う恋人たち。ただし彼らがこれから島へ向かうのか、それとも愛の時間を過ごして島を去ろうとしているのか。

実はこの作品、はっきりとは分かりません。そんな曖昧さも、この絵の魅力のひとつです。

現代風に言えば、「愛の聖地」を訪れる恋人たちを描いた作品ともいえるかもしれません。

 

Pilgrimage to the island of Cythera

画面の右端には野薔薇を巻き付けたヴィーナス像が立っており、巡礼者たちは当時流行っていた巡礼着に身を包んでいます。

男性は鍔を折り返した帽子に長い棒を持っていて、これは旅路で獣などから身を守るのに役立ったそうです。

ちなみにこの3組については、同じ男女の「恋の時間」を段階的に描いたのではないか、という解釈もあります。

右から、

  • 恋の始まり
    →男女の駆け引き
  • 恋の成就
    →愛を交わしたあと、男が立ち上がる
  • 恋のその先
    →女性は名残惜しそうに過去を振り返る

というように、
恋愛の時間が流れているようにも見えます。

もちろん、これが唯一の正解というわけではありません。

 

Pilgrimage to the island of Cythera

中央には服装からして貴族ではないカップル達の存在も確認でき、シテール島への巡礼が必ずしも宮廷人たちだけのものではないことを示しています。

雅宴画の確立

 

festival of love
ヴァトー「愛の祝祭」

この作品は1717年、ヴァトーが王立絵画彫刻アカデミーの正式な会員となるための「入会作品」として提出されました。

ところが、ここでひとつ問題が起こります。この絵、既存のジャンルに当てはまらない。

歴史画でもない。単なる風俗画とも少し違う。

そこでアカデミーは、ヴァトーの作品を受け入れるために雅宴画(フェート・ギャラント)という新しいカテゴリーを設けました。

雅宴画とは、美しい庭園や自然の中で、着飾った男女が語り合ったり、恋愛を楽しんだりする姿を描いたもの。

つまりヴァトーは、既存のジャンルに収まるのではなく、自分の絵によって新しいジャンルを生み出したのです。

ヴァトーという画家

 

Antoine Watteau

ヴァトーが生まれたのは、現在のフランス北部にあるヴァランシエンヌという街。

もともとはスペイン領ネーデルラントに属していた土地ですが、ヴァトーが生まれる6年前の1678年にフランス領となったばかりでした。

そのため彼の芸術には、フランスだけでなくフランドル絵画の影響も見られます。

親族に芸術家などはおらず、裕福でもなかったヴァトーは若くしてパリへ出ました。そこで室内装飾や舞台画家に弟子入りし、芝居の世界と深く関わります。

 

WatteauPierrot
ヴァトー「ピエロ(旧称ジル)」

そこで描いたのが彼のもう1つのジャンル、イタリア喜劇の役者たちです。

ちなみにヴァトーは雅宴画のイメージから華やかな人物と想像されがちですが、実際はとても内向的だったようです。

アカデミー会員となってからも社会の上層部と直接の交流はなく、女性との浮いた話すらありません。

華やかな雅宴画を描いた一方で、ヴァトー自身は病弱で、晩年には結核を患っていたと考えられています。アカデミー会員となった4年後には36歳の若さで亡くなっています。

メッセージ性

 

Pilgrimage to the island of Cythera

ここでもう一度、「シテール島の巡礼」を見てみましょう。

美しい自然。華やかな衣装。寄り添う恋人たち。一見すると、幸福な愛の世界を描いた絵に見えます。

でも、なぜでしょう。どこか寂しさも感じられます。

もし彼らがこれからシテール島を去るのだとしたら。描かれているのは「愛の始まり」ではなく、幸福な時間が終わっていく瞬間なのかもしれません。

華やかな世界への憧れなのか。恋愛という一瞬の幸福を描いたものなのか。それとも、幸福だからこそ生まれる「いつか終わってしまう」という寂しさなのか。

あなたには、この絵がどのように見えますか?

ぜひ、あなたなりのメッセージをこの絵から受け取ってみてください。

おわりに

 

Antoine Watteau
アントワーヌ=ヴァトー

ロココ美術の最盛期はルイ15世とポンパドゥール夫人の時代、つまりヴァトーの死後でした。

わずか20年程度でしたがヴァトーはそのロココ最盛の足音が聞こえ始めた頃に亡くなるのです。

ちなみに彼の自画像は死の数カ月前にイタリア人女性画家のロザルバ・カリエラが描きました。

貴族っぽい風貌ですが、実際はどうだったのでしょうね。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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