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フランス・バロックの代表作や特徴を解説【西洋美術史⑳】

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記事の要約
  1. フランス・バロック
    →王政の中での古典主義
    →カラヴァッジョの様式は限定的
  2. ローマで活躍したフランス人画家
    →ニコラ・プッサン
    →クロード・ロラン
  3. アカデミーの設立
    →シャルル・ルブランが中心
    →プッサンが規範

 

フランス・バロック美術の特徴は
厳格な古典主義です。

フランスはカトリック国ですが、
王政の中で厳格な古典主義が
推し進められたので、
イタリアやスペインとは
異なった傾向を示しました。

まずはこの時代の作品の
画像を確認していきましょう。

St. Joseph allegory of wealth Solomon's Judgment Shepherds of Arcadia Harbor scenery with the Queen of Sheba sailing Alexander the Great and King Porus

Simon Vouet
シモン・ヴ―エ
Nicolas Poussin
ニコラ・プッサン
Claude Rolland
クロード・ロラン
Charles Leblanc
シャルル・ルブラン


美術史年表

初期バロック⇒1590年代~1620年代

盛期バロック⇒1620~1670年代
スペイン・バロック
・フランス・バロック
フランドル/オランダ・バロック



フランス・バロックの特徴

 

Chancellor Seguier
ルブラン「宰相セギエ」

フランスでは1562~1598年まで、
カトリックとプロテスタントの間で
宗教戦争が勃発しました。

その内戦により国土は疲弊し、
17世紀初頭まで絵画の需要は減少します。

それに伴いフランスの若い画家たちは
より自由な活動を求めローマへと出向き、
当時盛んだったカラヴァッジョ様式の
影響を受けました。

 

Louis XIV
ルイ14世

そして17世紀後半、
ルイ14世の親政時代には
古典主義美術が完成します。

その特徴は以下の通りです

  • 安定したバランス感覚
  • 理性的かつ合理的

フランスはカトリック国でしたが
他国より中央集権政策を推し進めたので、
イタリアやスペインの美術とは
異なる傾向を示しました。

またパリでは宮廷的雰囲気が強かったので、
フランスではカラヴァッジョの様式も
地方に波及するに限られました。

ジョルジュ・ド・ラ・トゥール

 

St. Joseph
「聖ヨセフ」1642年または1645年

ジョルジュ・ド・ラ・トゥール
フランスのロレーヌ地方で
活躍した画家です。

ラ・トゥールがローマに出向いた
確実な資料は残っていないものの、
彼の作品からはカラヴァッジョの様式を
感じることができます。

 

Repentant Mary Magdalene
「悔い改めるマグダラのマリア」1635‐1640年

ただしラ・トゥールが
カラヴァッジョと違うのは、
明暗法を劇的な演出に使うのではなく、
内省的かつ禁欲的な精神を
表現するのに用いたことです。

 

ジョルジュ・ド・ラ・トゥール
  • 生きた年代
    →1593~1652年
  • 代表作
    →聖ヨセフなど
  • なにをした人?
    →カラヴァッジョが生み出した明暗法をフランスで用いた画家。夜の画家とも呼ばれている

シモン・ヴーエ

 

Lot and his daughters
「ロトとその娘たち」1633年

宗教戦争の疲弊から回復し始めた
17世紀前半のパリでは
シモン・ヴーエが活躍しました。

ヴーエはヴェネツィア経由でローマへ行き、
カラヴァッジョやカラッチの作品から
イタリア・バロック美術を学びました。

そして1627年に帰国すると、
ルイ13世の首席画家として活躍、
王宮の装飾を担当するなどしました。

 

allegory of wealth
「富の寓意」1645年

↑は代表作の「富の寓意」。

曲線の多用や対角線構図には
イタリア・バロック様式を感じますが、
感情や力の表現は抑制的です。

フランス特有の厳かな感じとバロックが
折衷した感じはフランス風バロック
評されました。

 

Simon Vouet
シモン・ヴーエ
シモン・ヴーエ
  • 生きた年代
    →1590~1649年
  • 代表作
    →富の寓意など
  • なにをした人?
    →イタリア・バロック様式をフランスへ伝えた画家。ルイ13世の首席画家としても活躍した

ニコラ・プッサン

 

Solomon's Judgment
「ソロモンの審判」1649年

ニコラ・プッサンは生涯にわたって
聖書や神話画などを描いた画家です。

フランス出身ですが、
活動の大半をローマで行いました。

ルネサンスの巨匠たちを模範として、
美術理論にも通じていたプッサンは
フランスの古典主義美術に
大きく貢献しました。

 

プッサンの一時帰国

 

Shepherds of Arcadia
「アルカディアの牧人たち」1638‐1640年

プッサンは1624年から亡くなるまで
ローマで活躍しましたが、
1640~1642年の間だけルイ13世に
招聘されてパリへ戻り、↑の作品や
ルーヴル宮の装飾などに携わりました。

イタリアで培われた正確な素描や色彩、
深い学識に裏打ちされた古典的理想美は
17世紀半ばに成立する
王立絵画彫刻アカデミーの規範となりました。

 

プッサンの風景画

 

Paysage avec Polyphème
「ポリュペーモスのいる風景」1649年

プッサンは後半生になると
風景画も多く手掛けました。

プッサンの風景画は
自然をそのまま描いたものではなく、
理想的に構成されたものです。

これは初期バロックのカラッチが確立した
理想的風景画に連なるものです。

 

Nicolas Poussin
ニコラ・プッサン
ニコラ・プッサン
  • 生きた年代
    →1594~1665年
  • 代表作
    →アルカディアの牧人たちなど
  • なにをした人?
    →フランス・バロックを代表する画家だが、その活動の大半はローマだった。王立絵画彫刻アカデミーの規範となった人物
  • その他の記事
    アカデミー/アカデミックな美術とは?

クロード・ロラン

 

Harbor scenery with the Queen of Sheba sailing
「シバの女王の船出のある港の風景」1648年

クロード・ロランはプッサン同様
ローマで活躍した画家で、
生涯にわたり風景画を描き続けました。

ロランの風景画はプッサンのよりも
光や大気の移り変わりに対する
繊細な感受性が示されています。

ロランもプッサンの風景画と同じく
カラッチの理想的風景画に連なっており、
後のウィリアム・ターナーなどに
影響を与えました。

 

Claude Rolland
クロード・ロラン
クロード・ロラン
  • 生きた年代
    →1600年代~1682年
  • 代表作
    →シバの女王の船出のある港の風景など
  • なにをした人?
    →プッサン同様、ローマで活躍したフランス人画家。理想風景を追求する画風で知られている

シャルル・ルブラン

 

Alexander the Great and King Porus
「アレクサンドロス大王とポロス王」1669年

フランスでは1648年に
王立絵画彫刻アカデミーが開校します。

そしてそのアカデミーの設立や運営の
中心となったのがシャルル・ルブランです。

1664年に国立首席画家となったルブランは、
17世紀後半のフランス美術を牽引しました。

 

Ecole des Beaux Arts
エコール・デ・ボザール

アカデミーでは古代美術やラファエロ、
プッサンが理想とされました。

また、絵画は知的で
精神に働きかけるものとして
体系的な教育が行われ、
物語画を頂点とする
絵画のヒエラルキーが生まれました。

 

Charles Leblanc
シャルル・ルブラン
シャルル・ルブラン
  • 生きた年代
    →1619~1690年
  • 代表作
    →アレクサンドロス大王とポロス王など
  • なにをした人?
    →アカデミーの設立・運営の中心となった画家。17世紀後半のフランス美術を牽引した
  • その他の記事
    アカデミー/アカデミックな美術とは?

まとめ

 

Shepherds of Arcadia
まとめ

✓絶対王政下のフランスでは
厳格な古典主義が求められた

✓ニコラ・プッサンは
アカデミーの規範とされた

✓シャルル・ルブランはアカデミー
設立・運営の中心となった

次回はフランドル/オランダ・バロックを解説します。

 

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