対話型鑑賞とは
美術作品を複数人で鑑賞しながら、
作品から感じた感想や想像を
話し合うメソッドです。
英語では
Visual Thinking Strategies(VTS)
とも呼ばれます。
この記事では
実際にファシリテーターとして
活動する立場から対話型鑑賞とは
なにかを詳しく解説します。
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対話型鑑賞とは?

Visual Thinking Strategyは
1980年代にニューヨーク近代美術館
で教育部長を務めていた
フィリップ・ヤノウィン氏と、
認知心理学者のアビゲイル・ハウゼン氏ら
によって開発されました。
美術鑑賞といえば作品近くにある
キャプションなどを参考にしながら
鑑賞する人も多いのではないでしょうか。
しかし対話型鑑賞では
作品を知識で見ていくのではなく、
その場で感じた感想や想像をもとに
参加者と対話をしながら見るのが特徴です。
その背景には
「実はみんな作品をよく見てないよね」
と言いたくなるような調査結果が
ありました。
対話型鑑賞の流れ

対話型鑑賞は
以下の流れで進行します。
- グループで作品をよく見る
- 観察した物事について発言する
- 他の人の意見をよく聴いて考える
- さまざまな解釈の可能性について考える
また、ファシリテーターが発する
重要な3つの問いかけがあります。
- この作品の中で何が起こっていますか?
- どこからそう思いましたか?
- もっと発見はありますか?
とてもシンプルですが、
実際に体験してみると
想像以上の気付きが得られますよ。
ここからは対話型鑑賞の進行の中で
重要な3つのポイントを
ファシリテーターの視点で解説します。
よく見る

まずはよく見ることです。
簡単なことのようですが、
実は多くの人が作品をよく見ていません。
もっと詳しく言うと、見る以前に
- なにを見たらいいかわからない
- どこに注目すればいいかわからない
- なにを考えながら見ればいいのか
などの壁に当たる方もいます。
この最初の壁を対話型鑑賞では
促されることにより取っ払います。
詳しくは後述しますが、
対話型鑑賞の背景には
ヴィゴツキーの理論というものがあり、
教育的理論に則っています。
思考を言語化する

次に思考を言語化することです。
対話型鑑賞を生み出した1人である
アビゲイル・ハウゼン氏は他にも
美的発達段階というものを提唱しています。
美的発達段階は簡単に言うと
美術鑑賞をする側のレベル分け
のようなものです。
そして約8割以上の人が
美的発達段階の初期の段階と
言われています。
対話型鑑賞は思考を言語化させることで
その美術鑑賞の段階を
引き上げることが期待できます。
他人の意見に耳を傾ける

3つ目に他人の意見に耳を傾けるです。
同じ絵を見ても
- 注目する場所
- 感じ方
- 解釈の仕方
- 表現の仕方
など千差万別です。
1人だと自分の見方だけですが、
複数人で会話しながら鑑賞することで
何十倍も作品の奥深さを感じられます。
ヴィゴツキーの理論とは

ここで対話型鑑賞の背景にある
ヴィゴツキーの理論にも触れておきます。
ヴィゴツキーの理論とは
発達心理学などを中心に幅広い分野で
活躍をした心理学者である
レフ・ヴィゴツキーが提唱したものです。
どのような理論(一部)かというと
- 思考は言語を媒介して起こる
→心理的道具、思考と言語 - 自分1人では出来ないことでも
他者による援助や媒介によって
できることがある
→最近接発達領域
というもの。
まず①に関して、
なにかを学び・考えるには言語が必要で、
いわば言葉は学ぶための「心理的道具」
なのだということ。
思考を言語化する過程において
特にこの部分が重要だといえます。
②に関しては
1人だと絵の見方が難しくても
誰かと一緒・媒介してなら
理解できる領域があるということです。
よく見ることや他人の意見を聞く部分で
重要だといえます。
対話型鑑賞の効果

対話型鑑賞には
以下の効果があるとされています。
- 観察能力や想像力の向上
- 思考力や問題解決能力の向上
- 協働性や多様性を育む
- 視野の広がり、他者理解が深まる
- 自己理解の深まり
- 表現力や曖昧さに対する耐性
- 美術鑑賞の楽しさの獲得
感じたこと(右脳)を
言語化する(左脳)ことで
脳の多くの部分を刺激し、
活性化させることが可能です。
実際に行ってみるとわかるのですが、
1~2時間もやるとかなり疲弊します。
これはそれだけ脳を使っていることに
他ならないと思います。
各地で行われる対話型鑑賞

対話型鑑賞は
1980年代にアメリカで生まれ、
1990年代に日本で紹介されました。
ここからは日本各地で行われる
対話型鑑賞を紹介します。
美術館

2000年代以降から
対話型鑑賞を取り入れる
美術館が増えてきています。
その背景には、
- 来館者と直接向き合い、
コミュニケーションする教育普及活動が
重視されるようになったこと - 生涯学習の観点から
市民ボランティアを巻き込むことが
求められるようになったこと
などが挙げられます。
全国各地の美術館によって
様々な企画が行われているので、
気になる方はチェックしてみて下さい。
学校の美術教育

日本では1998年、2008年に
学習指導要領が改正され、
図学工作・美術科で鑑賞教育の充実や
美術館の活用がうたわれました。
2006年からは
小中高の教員及び学芸員を対象に
「美術館を活用した鑑賞教育の
充実のための指導者研修」が行われ、
対話型鑑賞やアートカードが紹介されました。
ちなみにアビゲイル・ハウゼン氏による
ミネソタ州の学校で行われた
5年間の縦断研究では、
対話型鑑賞が美術作品だけでなく
日用品や非美術品の鑑賞や批判的能力の
育成にも寄与することが示されています。
企業の研修

2010年以降は企業の研修にも
美術が取り入れられることが
増えています。
その理由には大きく2つあり、
- 教養として美術を学ぶ
- 自分なりのものの見方を育む
これの特に後者において
対話型鑑賞が用いられます。
アート思考に関する書籍の出版なども
要因の1つでしょう。
医学看護教育

近年では対話型鑑賞を
医学看護教育に活用する
取り組みも増えています。
研究報告も増えており、
看護教育においては
- 観察力
- コミュニケーション力
- あいまいさ耐性の向上
に効果があると研究レビューから
示されています。
また、医療の現場で必要でありながら
従来の看護教育では育成が難しい
言語能力や観察力の向上に向けて
対話型鑑賞が必要であると指摘されています。
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まとめ

✓対話型鑑賞は作品を知識ではなく
感想や想像をもとに、
対話をしながら見ていくのが特徴
✓観察能力や想像力の向上、
思考力や問題解決能力の向上など
さまざまな効果がある
✓日本では1990年代以降、
さまざまな分野で
取り入れられている
→作品を知識ではなく、
その場で感じた感想や想像をもとに
対話をしながら見るのが特徴
→ヴィゴツキーの理論
→右脳・左脳の両方を使う
→さまざまな能力の向上