15世紀後半からヴェネツィアには
北方からの油彩画技法が伝えられ、
フィレンツェなどの中部イタリアとは
異なる特徴をもつ絵画が発展しました。
まずはこの時代の作品の
画像を確認していきましょう。
目次
ヴェネツィア絵画の形成
12世紀以降からヴェネツィアは
東方貿易を振興しました。
また造船技術を育成することで
海運業に必要な大型船の生産を組織化し、
海上都市国家として富を築きます。
しかし15世紀後半になると
オスマン・トルコと争ったり、
新海路発見に伴って貿易の中心が
大西洋沿岸地域に移動するなどしました。
ヴェネツィアにとって、
15~16世紀は国家の繫栄と衰退の
両方を経験した時期でしたが、
芸術活動は最も輝いた時代でした。
アンドレア・マンテーニャ
まず15世紀後半の北イタリア絵画の
中心的役割を担ったのが、
ヴェネツィア近郊のマントヴァで活躍した
アンドレア・マンテーニャです。
マントヴァには彫刻家ドナテッロの作った
彫刻が遺されていたことや、
古代遺跡などが豊富にあったことから、
マンテーニャはそこから彫刻のような
人体表現を学んでいきました。
- 生きた年代
→1431~1506年頃 - 代表作
→磔刑
→夫婦の間の装飾など - なにをした人?
→北イタリアのマントヴァで活躍した画家。15世紀後半の北イタリア絵画の中心的役割を担った
アントネット・ダ・メッシーナ
ヴェネツィア絵画に
大きく貢献したもう1人の画家が
アントネット・ダ・メッシーナです。
ナポリでネーデルラント絵画を学んだ
アントネットは1475~1476年に
ヴェネツィアを訪問しており、
油彩画技法を用いた細密描写など
北方様式をヴェネツィアへ伝えました。
- 生きた年代
→1430~1479年 - 代表作
→受胎告知の聖母など - なにをした人?
→油彩画技法などの北方様式をヴェネツィアへ伝えた人物
ヴェネツィア絵画の特徴
- アンドレア・マンテーニャ
- アントネット・ダ・メッシーナ
この両名の遺産を受け継いで
ヴェネツィア絵画の基礎を築いたのが
ジョヴァンニ・ベッリーニです。
光と色彩の複雑な描写で
情緒溢れる絵画を生み出しました。
そしてこのベッリーニの工房から
輩出されるのが、
- ジョルジョーネ
- ティツィアーノ
という2人の天才でした。
ヴェネツィア絵画は↑の2名によって
大きな進展を遂げたといっても
過言ではありません。
- 生きた年代
→1430~1516年 - 代表作
→牧場の聖母など - なにをした人?
→ヴェネツィア派の第1世代。ジョルジョーネやティツィアーノを輩出した巨匠
ジョルジョーネ
ジョルジョーネは師である
ベッリーニの様式に加えて、
ダヴィンチが考案した
スフマートや明暗法を取り入れ、
感情表現や大気の奥深さを巧みに描きました。
また「嵐」という作品のように、
今まで背景に過ぎなかった風景を
画面全体に表現し、
風景と人物どちらが主役なのか
はっきりしない作品も生み出しました。
微妙な明暗により深い詩情のある風景は
風景画の先駆ともみられています。
- 生きた年代
→1477~1510年 - 代表作
→眠れるヴィーナス
→嵐(テンペスタ)など - なにをした人?
→風景と人物が一体となった絵画を描いた最初の画家。詩的な作風が多い。
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
ジョルジョーネの後輩にあたる
ティツィアーノ・ヴェチェッリオは
ジョルジョーネが描いた裸婦画をもとに、
「ウルビーノのヴィーナス」を
生み出しました。
その他にもいくつか
全裸の女性の横臥像の絵は制作され、
裕福な貴族に買い求められました。
油彩のやわらかな筆致を重ねて肌を描き、
まるで血の通ったような皮膚の質感を
表現しました。
- 生きた年代
→1490~1576年 - 代表作
→ウルビーノのヴィーナス
→受胎告知など - なにをした人?
→ヴェネツィア派で最も重要な画家。筆使いと色彩感覚に特徴があり、次世代以降の西洋絵画にも大きな影響を与えた
ディセーニョとコロリート
ヴェネツィアでは、
フィレンツェやローマのように
彩色の前に素描を行わず、
いきなり描き始めることがありました。
これは紙の代わりに用いられ始めた
キャンバスの研究が行われていたことも
関係しています。
中部イタリアでは、
ディセーニョによって対象の形を
把握することを重視していました。
一方のヴェネツィアでは
色彩を駆使しての対象の質を
描き分けることを重視しました。
こうした色彩方法を専門用語で
コロリートといいます。
つまりヴェネツィア絵画の
黄金時代が確立された背景には
コロリートの発展があり、
ティツィアーノの存在があったのです。
- フィレンツェやローマ
→ディセーニョを重視
→その道の巨匠はミケランジェロ - ヴェネツィア
→コロリートを重視
→その道の巨匠はティツィアーノ
受胎告知
↑はティツィアーノの「受胎告知」です。
彼はそれまでの受胎告知とは違い、
聖霊のハトを劇的に描いたり、
明確な輪郭線ではなく複雑な筆致や
絵具のこすれで表現しました。
このような表現は見る者の感情に
強く訴えかけるものとして、
宗教革命の気運と合致して受け入れられ、
グイド・レーニなどバロックの画家に
影響を与えました。
まとめ
✓北方の影響を受けて発展した
ヴェネツィア美術
✓色彩によって質感を描き分ける
コロリートが重視され、発展した
✓感情に訴えかける筆致や色は
後のバロックにも影響を与えた
次回は北方ルネサンスを解説します。
→北方の影響
→紙ではなくキャンバス
→ディセーニョとコロリート
→色彩による質の描き分けを重視
→感情に訴えかける
→バロック美術に影響