この記事は
山田五郎さんのYoutubeチャンネルである
「山田五郎オトナの教養講座」より、
動画の内容を文字に起こして
解説していくものです。
第16回目のタイトルは
【「草上の昼食」この女性はなぜ1人だけ裸なの!?】
今回はマネの作品についてです。
まだ動画をみてない方は
是非ご覧になって下さい。
文字の方が理解しやすい方は
ぜひ最後までお付き合いください。
「草上の昼食」なぜ1人だけ裸なの!?
今作はエドゥアール・マネが
1862~63年に制作した作品です。
当時、それまでの伝統絵画から
逸脱した作品であったために
批判を受けた作品でもあります。
それにしても作中の女性は
なぜ裸なのでしょうか?
今回はそれがテーマなのですが、
その理由は序盤で明かさています。
それは元ネタがあるから。
↑はラファエロの弟子である
ライモンディの版画です。
(原作はラファエロ)
ルネサンス以降、古典絵画の模範として
ラファエロの作品が使われていましたが、
その理由の1つにライモンディによる
版画がヨーロッパ中に広まったことが
あげられるとのこと。
そして版画の右下をよく見ると…
たしかに草上の昼食と
同じ構図があります。
そして山田さんは
さらにもう1つ元ネタがあると言います。
それがティツィアーノの作品、
「田園の奏楽」です。
つまり今作は
ラファエロとティツィアーノを
合わせたような作品なのです。
もっといえば
古典的作品+古典的作品
=草上の昼食です。
ただしマネの作品はあくまで
19世紀の人々の服装や雰囲気で
まとめています。
現代風の古典といった感じですね。
しかし今作はかなりの批判を
浴びてしまいます。
1863年の国営展覧会、
通称サロンは落選者が約3000人もいた
過去にも例を見ない落選者数でした。
そこでナポレオン3世は落選者を集い、
「落選者展」を開催。
今作もその落選者展の方で展示されました。
ところが、
今作はその落選者展の方でも
酷評を受けてしまいます。
なんでそこまで大不評?
なぜ草上の昼食はそこまで
批判を受けてしまったのでしょうか?
ここでキーワードになるのが裸です。
前回のドラクロワの話が今回も登場します。
前回の話を知らない方に簡単に説明すると
西洋絵画では暗黙のルールが存在し、
その1つにギリシャ神話の女神や
旧約聖書のアダムとイブのような、
非実在人物なら裸で描いてよいという
ものがありました。
先ほどのラファエロの作品なら
ギリシャ神話がテーマなので裸でOKですし、
ティツィアーノのは音楽の神という
設定なのでOKといった感じです。
ではマネのは…?
この裸の女性も女神という設定にすれば
いけそうな気もしますが…
しかしここで問題が発生。
それはこの女性のモデルが
ヴィクトリーヌ・ムーランだと
バレていたことです。
加えて19世紀の雰囲気を醸し出す
今作には神話画のような
優美さや厳かさがありませんでした。
これでは裸を描く前提となる
非実在人物のルールが
守られていないことになります。
↑は1863年のサロンで大絶賛された
アレクサンドル・カバネルの
「ヴィーナスの誕生」です。
裸で横たわる女性の上にエロスがいるので、
女性はヴィーナスであるとわかります。
そしてヴィーナスであれば女神なので
当然、裸で描いてよいわけです。
ここにマネの不満点がありました。
古き慣習かつ作品以外の部分で
評価されるサロンに。
そしてマネは1865年に、
再び挑戦的な作品を出品します。
それがオランピアです。
これにも古典の元ネタが存在します。
それがティツィアーノの
「ウルビーノのヴィーナス」。
マネは前回より、
更に知名度のある作品を選びました。
ウルビーノのヴィーナスは
結婚のお祝い作品だとされています。
その理由は以下の通り
- 愛の女神ヴィーナス
- 衣装ケース
- 犬
衣装ケースは結婚式の贈り物に
よくあるモチーフです。
衣装ケース=嫁入り道具の象徴
となっているからです。
犬は忠誠の象徴です。
結婚をテーマにした作品に
犬も数多く登場しています。
では、オランピアでは
どのように描かれているでしょうか。
・・・‼
マネは犬ではなく猫を描いています。
犬と違って西洋での猫は
不吉、肉欲などの意味があります。
また、ヴィーナスも
当時の娼婦のスタイルで描いています。
(腕輪やチョーカーなど)
さらにマネは当時流行っていた
日本美術の要素も取り入れており、
人物・物体の陰影を薄くして
平面的な表現を使いました。
つまりマネはオランピアでも
現代風の古典を表現したのでした。
オランピアはサロンで入選しますが、
同時に前作以上のスキャンダルを
巻き起こしました。
ちなみに1865年のサロンは、
モネの作品が入選した会でもありました。
2人の作品は同じ部屋に展示され、
それを機にモネとマネは交流を始めます。
挑戦的な作品を描き続けるマネの姿は、
まだ若いモネに大きな刺激と勇気を与えました。
モネがマネをリスペストした
作品もあります。
マネの周りには若い芸術家たちが
集まるようになり、
その中にはモネの友人である
ルノワールやシスレーもいました。
そしてその若い芸術家たちが後年、
印象派として活躍するのでした。
印象派が生まれるキッカケとなった
マネが表現したかったこと
ではここで話を振り返ります。
草上の昼食で女性だけが裸なのは
古典絵画の元ネタがあるからです。
そしてマネは古典を
現代風に変えて表現しようとした
画家でした。
ここでいう現代風とは
人物の衣装やモチーフだけでなく、
描き方のことも指します。
まさに古きを温めて新しきを知るを
体現した画家ですね。
加えて山田さんは動画終盤で、
アートは感性で描くものか?という
話題を持ち出します。
一見、わけのわからない現代アートも
世界的な評価を得る作品の多くは
現代美術史の流れに沿っているそうです。
デタラメにも歴史がある
という表現を使われていました。
まとめ
✓女性が裸なのは
古典絵画を元ネタにしたから
✓古典を現代風に
描こうとしたのがマネ
✓マネの活動は若い芸術家たちに
刺激と勇気を与えた
✓印象派誕生のキッカケになった
次回はボスの作品についてです。
→元ネタがあるから
→現代風の古典
→印象派誕生のキッカケ