西洋絵画で学ぶ認知バイアス

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この記事では6枚の西洋絵画から
認知バイアスについて考えることを
試みています。

独自の解釈をもとに述べたものであり、
制作者の意図とは異なること
了承の上でお楽しみ頂けると幸いです。


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西洋絵画で学ぶ認知バイアス

楽園からの追放

 

「楽園からの追放」1425年

人は現在の状態を基準点として捉え、
そこから変化するのを避けようとする
傾向があります。

たとえば、

  • 今の仕事に不満があるのに転職しない
  • 新しいことを始めたいのに
    「今のままでいい」と考える
  • 使っていないサービスを解約できない

といった行動です。

変わることで得られるものよりも、
今あるものを失うことへの
心理的な抵抗の方が大きいのです。

「楽園からの追放」には
アダムとイブが楽園から
追放される場面が描かれています。

 

2人はそれまで暮らしていた
世界を突然失いました。

アダムは両手で顔を覆い、
イブは口を大きく開けて
苦痛を表現しています。

このような表現を前にして、

人は慣れ親しんだ世界を失うとき、
どのような感情を抱くのか?

という問いを立ててみるのも
いいかもしれません。

今の生活を変えたいと思いながら、
なかなか変えられない。
そんな経験は多くの人にあるでしょう。

そのとき私たちは、
本当に「今の状態が良い」から
変わらないのでしょうか。

単に「変化することが不安」ということで
現状を選んでいるだけなのかもしれません。

 

現状維持バイアス

変化によって得られる利益よりも、変化に伴うリスクや損失を過大に評価し、無意識に今の状態や慣習を続けようとする心理的傾向のこと

イメージの裏切り

 

「イメージの裏切り」1928‐29年

同じ情報でもどのような枠組みフレーム
提示されるかによって、
受け取り方や判断が変わる現象を
フレーミング効果といいます。

例えば、
「成功率90%」と「失敗率10%」
は数学的には同じ情報ですが、
人は同じようには受け取りません。

 

「イメージの裏切り」にはパイプの絵と、
これはパイプではないという言葉が
描かれています。

「いや、どう見てもパイプじゃないか」
と思うかもしれません。

しかし実際に描かれているのは
パイプそのものではなく、
パイプを表現した絵です。

つまり私たちが見たものを
そのまま現実だと思ってしまう
危うさを考えさせる作品なのです。

私たちは情報そのものを見ているのか、
それとも情報に与えられた
枠組みを見ているのか

この問いは現代社会にも通じます。
ニュースの見出し、SNSの投稿、
広告、AIが生成した画像。

私たちは何が起きたかだけではなく、
どう見せられたかにも影響されています。

 

フレーミング効果

同じ事実や情報であっても、その見せ方や伝え方によって受ける印象が変わり、人の判断や意思決定に影響を与える心理現象のこと

モナ・リザ

 

Mona Lisa
「モナ・リザ」1503‐19年

ある人物や物事が持っている
1つの目立った特徴がその他の評価まで
引っ張ってしまうのをハロー効果といいます。

例えば、

  • 有名大学を卒業しているから、
    きっと仕事もできる
  • 高級な服を着ているから、
    きっと優秀な人だ

という判断です。

 

それを「モナ・リザ」で考えてみます。

ルーヴル美術館自身がモナ・リザを
世界で最も有名な絵画と位置づけています。
謎めいた微笑みや、長い歴史の中で
形成された圧倒的な知名度によって、
1つの文化的アイコンになっています。

ではもしモナ・リザが無名の画家によって
描かれた作品だったら、
私たちは同じように評価するでしょうか?

  • レオナルド・ダ・ヴィンチの作品
  • 世界一有名な絵
  • ルーヴルの至宝

という情報を知らずに見る場合と、
知ってから見る場合では、
私たちの見方は同じでしょうか。

私たちは作品を見る前に、
すでに作品についての
物語を与えられています。

そしてその物語が作品の見え方を
変えている可能性があります。

 

ハロー効果

ある対象を評価するときに、目立つ良い点や悪い点に引きずられて、全体の評価がゆがんでしまう心理現象のこと

叫び

 

scream
「叫び」1893年

人は何かを判断するとき、
頭の中に思い浮かびやすい情報ほど、
実際よりも重要・頻繁だと
判断しやすい傾向があります。

このことを、
利用可能性ヒューリスティックといいます。

  • 飛行機事故のニュースを続けて見た後、
    「飛行機は危ないから乗るのをやめよう」
    と過剰に怖がる
  • スーパーで買い物をするとき、
    テレビCMでよく見る商品や、
    最近買った商品を選んでしまう。

などが具体例です。

「叫び」は不安や恐怖、孤独の象徴として
非常に強く認識されています。

ノルウェー国立美術館も、
この作品が不安や恐怖の普遍的な象徴に
なっていると説明しています。

ムンク自身が夕暮れの風景の中で
自然を貫く叫びを感じた体験が、
この作品の出発点でした。

私たちはこの作品を見ると、
恐怖や不安、精神的苦痛を感じます。

しかし作品をじっくり観察してみると、

  • 奥にいる二人の人物
  • 橋の構造
  • 水面
  • 空の色
  • 中央人物の性別すら判然としない姿

など、さまざまな要素があります。

つまり、

私たちは本当に絵を見ているのか
それとも叫びという記号を見ているのか

という問いが生まれます。

 

利用可能性ヒューリスティック

物事を判断するときに、頭に思い浮かびやすい情報や印象深い記憶を優先して使い、その確率や頻度を高く見積もってしまう認知バイアスのこと

盲人の寓話

 

「盲人の寓話」1568年

人は1人で判断するときよりも、
周囲の人が同じ方向を向いていると、
自分の判断にも自信を持ちやすくなる
傾向があります。

  • みんながそう言っている
  • 誰も反対していない

という状況が、
自分の判断を補強するのです。

ブリューゲルが描いたのは、
盲人たちが一列になり進んでいる場面。

先頭の人物が倒れ、
その後ろにいる人物たちも
同じように転倒していきます。

1人ひとりが自分の状況を
把握できていないにもかかわらず、
列は進み続けています。

現代社会に置き換えるとSNSで、
「この意見が正しい」という投稿が
大量に流れてきたらどうでしょう。

最初は疑問を持っていた人も、

これだけ多くの人が言っているのだから、
きっと正しい

と考えてしまうかもしれません。
しかし人数が多いことと、
正しいこととは別問題です。

 

同調行動

集団の調和を優先するあまり非合理的な意思決定をする心理現象のこと

ラス・メニーナス

 

Las Meninas
「ラス・メニーナス」1656年

人間の視覚には限界があります。
目の前に大量の情報があっても、
すべてを同じように
処理しているわけではありません。
自分が注目しているものを
中心に世界を認識しています。

「ラス・メニーナス」の画面中央には
王女マルガリータがいます。
その周囲には侍女、道化師、犬、
画家自身などが配置されています。
そして奥には鏡があります。
その鏡には国王フェリペ4世と
王妃マリアナが映っています。

では私たちは今、
何を見ているのでしょうか?

プラド美術館もこの作品には
政治的意味、美術史的意味、
そして見ることや絵画と現実の境界を
めぐる複数の意味が
重なっていると説明しています。

 

Las Meninas

同じ絵を見ても、
王女がかわいいと思う人もいれば、
画家が面白いと思う人もいる。
鏡に気づく人もいれば、
最後まで気づかない人もいる。

つまり、

同じものを見ても、
私たちは同じものを見ているとは限らない

ということです。

 

選択的注意

たくさんの情報がある中で自分に必要なものだけを選んで意識を向け、関係のない情報を無視する脳の働きのこと

まとめ

 

作品絵から考えたいこと
マザッチョ《楽園からの追放》現状維持バイアス:人はなぜ変化を恐れるのか
マグリット《イメージの裏切り》フレーミング効果:見せ方は認識をどう変えるか
ダヴィンチ《モナ・リザ》ハロー効果:私たちは作品そのものを見ているのか
ムンク《叫び》利用可能性ヒューリスティック:強烈なイメージは判断を支配するか
ブリューゲル《盲人の寓話》同調行動:みんなと同じなら正しいのか
ベラスケス《ラス・メニーナス》選択的注意: 同じものを見ても、同じものが見えているのか