宗教画で頻出するテーマに
「受胎告知」があります。
新約聖書に書かれている話の1つで、
数多くの画家が描いている
とても重要な場面です。
そこでこの記事では、
受胎告知の基本について
解説していきます。
受胎告知とは?
受胎告知は新約聖書の1つである、
ルカによる福音書に記されています。
内容は、ナザレにいたマリアの前に
大天使ガブリエルが現れて
キリストを妊娠したことを告げる
というものです。
ちなみにこの時、マリアはまだ処女であり
ヨセフという婚約者もいる状況でした。
ですのでマリアにしてみれば
「本当にありえない」告知なのですが、
描かれ方に多くのバリエーションがあり、
いろんな作品を見比べても面白いです。
まずは受胎告知の描かれ方の基本を
おさえていきましょう。
受胎告知の描かれ方の基本
まず、受胎告知に必ず登場するのが
- 大天使ガブリエル
- マリア
です。
大天使というのは天使の階級の1つで、
神と人間との連絡係を務める天使です。
天使なので必ず羽が生えた姿で描かれます。
マリアの方は赤い服に青のマントを
纏っていることが多いです。
理由として、
赤→神の慈愛
青→天の真実
を意味しているからです。
また、必ずではないけど
多く登場するのが
- 白い百合
- 鳩(精霊)
です。
白い百合の花は
マリアの無垢の象徴とされています。
鳩(精霊)はマリアが
精霊の力によって身籠ったことを
示しています。
左と右について
受胎告知には構図にも
重要なポイントがあります。
それは左に大天使ガブリエル、
右にマリアが描かれていることです。
その理由にはいくつかあり、
- キリスト圏では右が上位
- 左から右へ視線移動
これらが有力かなと考えています。
キリスト圏では右が上位
まずこちらに関してですが、
英語で右はright。
rightには正しいという意味もあります。
宗教画に頻出の別テーマに
最後の審判があります。
ここでは上正面にいるキリストからみて
右を天国(鑑賞者からみて左)、
左を地獄(鑑賞者からみて右)としています。
これは他の作品にも共通しており、
やはりキリスト圏では右を上位とする
考え方があるようです。
つまり受胎告知では、
大天使ガブリエルよりも
キリストを身籠ったマリアの方が
上位としています。
左から右へ視線移動
もう1つ考えられる理由に
横書き文化圏では左→右へ
文字を書くことから、
左から右へ視線移動する作品が多いと
いうものです。
実際、ガブリエルがマリアに
掛けた言葉が描かれている作品もあり、
こういう場合は左にガブリエルを配した方が
見やすくなりますね。
ちなみに数は少ないですが、
左右が逆に描かれた作品もあります。
様々なバリエーション
ここからはパターン別に
いろんな受胎告知を見ていきましょう。
- マリアが気付いていないパターン
- 天使の登場に驚きパターン
- 天使の告知に驚きパターン
- 告知を受け入れたパターン
マリアが気付いていないパターン
↑の中央パネルが受胎告知です。
この作品のマリアは読書に夢中で
ガブリエルの存在に気付いていません。
こちらの作品のガブリエルは
宙に浮いている状態で描かれています。
マリアはまだ気付いていない様です。
天使の登場に驚きパターン
次は天使の登場に驚きパターンです。
↑の作品のガブリエルは
かなり勢いのある登場です。
マリアはとても驚いていますね。
天使の告知に驚きパターン
天使の告知に驚きパターンでは
マリアの表情や身振りに注目です。
神の子(キリスト)を身籠ったなんて
驚くに決まってますよね。
ちなみに、
この時代の女性の浮気は姦淫という
死刑に値する重罪でした。
ヨセフという婚約者がいながら
子を身籠ったなんて世間に出回ったら…
いろんな葛藤がマリアにあったでしょう。
告知を受け入れたパターン
最後は告知を受け入れたパターンです。
手を胸の前で組むポーズは
- 神への敬虔を示唆するポーズ
- 心臓と十字架の両方にかけて正直を誓う
- 祈祷、礼拝のポーズ
などと言われており、
ガブリエルと無言の会話を
しているとされています。
突然のガブリエルの告知に
戸惑いや不安もあったマリアですが、
最後は神の言葉を受け入れるのでした。
まとめ
✓大天使ガブリエルがマリアにキリストの妊娠を告げる場面
✓描かれ方にはルールがある(羽や洋服の色など)
✓作中のマリアの表情や身振りで状況が違う
今回の記事に掲載した多くが
ルネサンス前後の作品ですが、
近代以降は宗教観が変わっていくのもあり、
受胎告知の描かれ方もまた大きく変わります。
宗教画のテーマ1つとっても
画家や時代で描かれ方が大きく異なるのは
すごく面白いですね。
最後まで読んで頂き、
ありがとうございました。
→大天使ガブリエルとマリア
→左にガブリエル、右にマリア
→テーマは同じでも場面が違う