オンラインで対話型鑑賞実施中 ▶

美術史とみていく技法/モザイクやフレスコ、テンペラとは?

thumbnail

 

記事の要約
  1. 技法によって費用が変わる
  2. 時代によって主流が変わる
  3. 大きなものから小さいものへ

 

突然ですが、
あなたは美術館のディスクリプションに
書いてあるフレスコテンペラという
技法がどんなものかご存知ですか?

よくわからずにスルーしている人も
多いのではないでしょうか?

西洋美術史は
絵画技法の歴史でもあります。

知ってる人も知らない人も、
この記事で技法についての理解を
深めておきましょう。


絵画の技法について

 

技法は面白いことに
当時の経済と密接に関係してきます。

お金がある時代・国では
お金が掛かる技法で作品が作れるし、
そうではない時代・国では
極力コストを抑えて作品を作ります。

もちろん、科学的な進歩と共に
発展した技法もあります。

ここから順に技法をみていきましょう。

モザイクとは?

 

Justinianus I
モザイクによる作品

まずはモザイクです。

モザイクとは色のついている
石やガラスを小さく砕き、
漆喰を塗った壁に埋め込んで
模様を描く技法です。

石やガラスを砕いた欠片のことを
テッセラとよびます。

テッセラは発色がよく、
太陽光にあたる面積も少ないので
あまり退色もしません。

模様の表面に金箔を貼って、
更に煌びやかにすることもありました。

 

ユスティニアヌス1世
拡大図

しかしこのモザイクは壁一面に
テッセラを1つずつ並べていくので
かなりの労力をかかる技法です。

また、顔料となる色石を
細かく粉末状にしたりせず、
欠片テッセラとして使うのでコストもかかります。

よってモザイクは皇帝や教会など、
注文主が莫大な財力をもっていた時代に
よく使われた技法
でもあります。

 

パトロンで振り返る西洋美術史

フレスコとは?

 

School of Athens
ラファエロによるフレスコ画

モザイクは労力とコストが掛かる他に、
壁に欠片テッセラを半分だけ埋め込む技法なので、
少しの地震でも崩れる脆さが問題でした。

その点を克服したのがフレスコです。

フレスコは色のついた
石やガラスを粉末状にし、
それを水や石灰水で溶かして
漆喰を塗った壁に塗るという技法です。

壁に塗った漆喰が乾ききらないうちに
顔料を塗らないといけないので、
漆喰がまだフレスコ(新鮮)という
意味でその名がついています。

この技法は漆喰が乾くときに顔料も
一緒に壁と一体化するので、
モザイクより定着力がある上に
筆で描くため細かな造形も可能でした。

また、石を粉末にして伸ばして使うので
石のまま使うよりコストを削減できました。

難点としては、
漆喰が一度乾いてしまうと
やり直しができないことです。

よって制作者の高度な計画と
技術力を必要とする技法でした。

テンペラとは?

 

Birth of Venus
ボッティチェリによるテンペラ画

ここまでのモザイク、フレスコは
壁一面に漆喰を塗って定着させる技法で、
裕福なパトロンでないと注文できませんでした。

その一方で中世~初期ルネサンスには
テンペラ板絵という技法が盛んに用いられます。

板絵には漆喰ではなく、
顔料を板に定着させるために
固定材を使います。

そして顔料と固定材を合わせるために
卵が使われ、ラテン語で混ぜ合わせる
いう意味のテンペラが技法名となりました。

板は入手がしやすく、
それまでの技法と違って
塗り直しが可能でした。

ところが木の板は湿気に弱く、
表面が反り返って顔料が
剥がれ落ちることもありました。

また、当時の板はまだ重量があり
持ち運びも困難でした。

油彩とは?

 

Madonna and Child of Van der Paale
ファン・エイクによる油彩画

油彩は顔料と固定材を合わせるのに
卵ではなくを使った技法をさします。

油彩はフランドルのファン・エイク兄弟
より完成されました。

油彩絵具はテンペラよりも透明性が高く、
粘稠度も高いことから光沢のある画面を作る
ことができました。

 

油彩絵具
油彩絵具

また油彩は遅乾性でテンペラより
精緻な描写が可能でした。

この油彩は絵画技法に大きな発展を
もたらしたと言われています。

 

北方ルネサンスの特徴や代表作を解説

キャンバスの誕生

 

キャンバス
包み張りキャンバス

フランドルで油彩が完成された頃、
イタリアのヴェネツィアでは
キャンバスが生まれました。

港町のヴェネツィアでは船の帆に使う
布が溢れていたのです。

キャンバスは板よりも安く、
反り返ることもない上に
持ち運びも楽なので大人気となりました。

17世紀のオランダ

 

nightwatch
レンブラントによる油彩の作品

17世のオランダでは油彩画が
一般的になっていました。

そこにイタリアで生まれた
キャンバスが導入されると、
油彩+キャンバスという現代でも
主流な制作が盛んになりました。

当時のオランダは商人が力を持ち、
家の壁を飾りたいという彼らの要望に
持ち運びも楽で安価な油彩+キャンバス
組み合わせは最高でした。

 

フランドル/オランダ・バロックを解説

銅版画

 

Copper engraving
銅版画

15世紀のドイツでは銅版画が発明され、
テンペラや油彩による絵画に
匹敵する作品が登場し始めます。

銅版画とは金属板に針で引っ搔いて
図柄を描き、凹部にインクを流して
紙に刷る画のことです。

 

Albrecht Dürer
アルブレヒト・デューラー

優れた銅版画で知られる画家に、
アルブレヒト・デューラーがいます。

イタリアの巨匠であるラファエロとも
親交のあった彼は、
遠近法や人体比例論を研究すると共に、
ドイツでの芸術家の地位向上に寄与しました。

ドイツ・ルネサンスの特徴や代表作を解説

 

Four Horsemen of the Apocalypse
デューラーの銅版画作品

まとめ

 

まとめ

✓モザイクは莫大なコストが掛かる

✓モザイク、フレスコは
漆喰を塗った壁に絵を描く技法

✓油彩+キャンバスが安価で
手軽な最高の組み合わせ

✓15世紀のドイツで銅版画が発明された

ちなみに印象派の時代に入ると、
チューブ入り絵具が誕生して
屋外での制作が可能となります。

時代と共に移り変わる技法の歴史。

美術館にいく機会があればぜひ、
テンペラや油彩など技法別に作品を
見比べてみても面白いですよ。

thumbnail