このシリーズでは1つの作品に
隠された時代背景や解釈、
メッセージ性を読み解いていきます。
第11回目はアントワーヌ=ヴァトーの
「シテール島への巡礼」です。
絵画を通して得た知見が
あなたの心のビタミンになれば
幸いです。
シテール島への巡礼を解説
題名
シテール島の巡礼
制作者
アントワーヌ=ヴァトー
制作年
1717年
美術史では
ロココ美術
寸法
129cm×194cm
種類
油彩
所蔵
ルーヴル美術館
今作はロココ美術を代表する画家、
アントワーヌ・ヴァトーに
よって描かれました。
シテール島は美と愛欲の女神である
ヴィーナスが海の泡から生まれ、
流れ着いて住んだ島とされています。
今作はその島に8組のカップルがきて
熱いひとときを過ごしている絵であり、
今でいう映画やアニメロケ地の
聖地巡礼みたいなもの。
画面の右端には野薔薇を巻き付けた
ヴィーナス像が立っており、
巡礼者たちは当時流行っていた
巡礼着に身を包んでいます。
男性は鍔を折り返した帽子に
長い棒を持っていて、
これは旅路で獣などから
身を守るのに役立ったそうです。
ちなみに画像の3組のカップルは
服装は違うも同一カップルでは
ないかという説があり、
右から
- 恋の始まり
→男と女の駆け引き - 成就
→愛の営みの後、
先に立ち上がるのは男 - 幸せな結婚
→女は過去を振り返る
となっているそう。
左側男性の足元にいる犬は
忠実さのシンボルです。
中央には服装からして貴族ではない
カップル達の存在も確認でき、
シテール島への巡礼が必ずしも
宮廷人たちだけのものではないことを
示しています。
雅宴画の確立
シテール島の巡礼は絶賛され、
当時32歳だったヴァトーは
アカデミー正式会員に選ばれます。
それと同時に雅宴画と呼ばれる
ジャンルが誕生しました。
雅宴画とは屋外で談笑する
当世風の衣装で着飾った男女の集いを
テーマにしたものです。
ヴァトーという画家
ヴァトーは生粋のフランス人ではなく、
もとはフランドル人。
彼の生まれたヴァランシエンヌという
地は彼の生まれる6年前に
フランス領になったばかりでした。
親族に芸術家などはおらず、
裕福でもなかったヴァトーは
17歳でパリへ出ました。
そこで室内装飾や舞台画家に弟子入りし、
芝居の世界と深く関わります。
そこで描いたのが
彼のもう1つのジャンル、
イタリア喜劇の役者たちです。
ちなみにヴァトーは雅宴画のイメージから
華やかな人物と想像されがちですが、
実際はとても内向的だったようです。
アカデミー会員となってからも
社会の上層部と直接の交流はなく、
女性との浮いた話すらありません。
加えて鬱気味で慢性不眠症でもあり
生涯を独身で過ごしました。
早くから胸を病んでいて、
アカデミー会員となった4年後には
36歳の若さで亡くなっています。
メッセージ性
ここでもう一度
シテール島の巡礼を見てみましょう。
ロココ美術を代表するヴァトーが
愛の島で熱い時間を過ごす男女を
華やかに描いた今作。
一方画家自身は貴族達との交流もなく、
人を避けて生活していたようです。
あなたにはシテール島の巡礼が
どのように見えますか?
華やかな世界への嫉妬交じりの憧れ?
絵という舞台上でのただの遊戯?
短く儚いロココ時代への予見?
是非、あなたなりのメッセージを
受け取ってください。
まとめ
✓雅宴画というジャンルを
確立させた作品
✓画家は生粋のフランス人ではなく、
内向的な人間だった
✓アカデミー会員となった4年後には
36歳の若さで亡くなった
ロココ美術の最盛期は
ルイ15世とポンパドゥール夫人の時代、
つまりヴァトーの死後でした。
わずか20年程度でしたが
ヴァトーはそのロココ最盛の足音が
聞こえ始めた頃に亡くなるのです。
ちなみに彼の自画像は
死の数カ月前にイタリア人女性画家の
ロザルバ・カリエラが描きました。
貴族っぽい風貌ですが、
実際はどうだったのでしょうね。
最後まで読んで頂き、
ありがとうございました。
→ヴィーナスが流れ着いた島
→聖地巡礼
→当世風の衣装で着飾った
男女の集いをテーマにしたもの
→生粋のフランス人ではない
→36歳の若さで亡くなる